ベスト・エフォート型を持ち込んだことが革新的

 しかし、ベスト・エフォート型は口で言うのは簡単だが、実行するのは容易ではない。自動車やロケット開発でベスト・エフォート型が機能するには2つの絶対的条件が欠かせないからだ。

 その一つ目は、基本設計が正しいこと。基本設計が正しければ、「後付け改善」で問題点を解決し、完成度を高めていくことができる。

 例えば、モデルSの基本設計のひとつは、約7000個のバッテリーを車体下部に敷き詰める点だ。この設計なら低重心で走行性は安定するが、路肩などに乗り上げた際はバッテリーが損傷する危険性があった。そこで、バッテリーパックの底は防御プロテクターでカバーした。

 ところが2013年、ワシントン州の高速道路を走行中のモデルSが落下物を車体の下に引っかけ、発火事故となったことがあった。

 しかし、この時もテスラは後付け改善で対応し、安全性を確保したのだ。具体的には、高速走行中はソフトウエアで自動的に車高を上げ、ハードウエア的には、車底に3重構造の強力なプロテクトシールドを追加した。それ以降、問題は起きていない。

 車体下部にバッテリーを敷き詰める基本設計はそのまま継続され、さらに45万台以上売れた3万5000ドルのEV「モデル3」でもバッテリーは同様のレイアウトを踏襲した。だが、もし車高を上げても、強力なプロテクトシールドを破壊し火災事故が続出したなら、大量のバッテリーを車底に敷き詰めるという基本設計が正しくなかったことになり、一から見直す必要が出てくる。