ポストコロナの新世界#1 脱成長Photo:Bulgac, _human, egal/gettyimages

ワクチン接種の進捗などで年後半には経済回復が見込まれる日本だが、それでも経済社会が元の姿に戻るとは考えにくい。格差拡大や人口減少、温暖化など、コロナ前からの構造問題や米中「新冷戦」などの国際環境の変化は経済や社会の在り方の転換をいや応なく迫る。私たちはどこへいくのか。特集「ポストコロナの新世界」の#1では、新たに“発見”した晩年のマルクスのエコロジー論をヒントに、「脱成長コミュニズム」を唱える斎藤幸平・大阪市立大大学院准教授に、脱成長をテーマに目指すべき経済社会の姿を聞いた。(聞き手/ダイヤモンド編集部特任編集委員 西井泰之)

コロナは危機の原因ではなく
資本主義の必然の結果

――変異株が猛威を振るい、新型コロナウイルス感染の収束の見通しは立っていません。コロナ禍でどんなことを考えましたか。

 格差拡大や気候変動問題など、コロナ前からの資本主義経済の限界が、コロナ禍で改めて浮き彫りになったと思います。

 格差に関していえば、GAFAなどのIT巨大企業や超富裕層はコロナ禍でもますます富を増やし、サラリーマンでも安全で快適なテレワークを続けることもできた人がいる。その一方で、営業自粛などの影響は零細事業やそこで働くパートタイマーの人たちの生活を襲いました。

「資本主義しかない」という呪縛から自由に! 『人新世の「資本論」』著者が描く世界さいとう・こうへい/1987年生まれ。ベルリン・フンボルト大学哲学科博士課程修了。博士(哲学)。2017年に現職。専門は経済思想、社会思想。『大洪水の前に』(邦訳)で2018年ドイツチャー記念賞を受賞。近著『人新世の「資本論」』(集英社新書)は2021年の新書大賞。 Photo by Kazuhiro Igarashi

 低賃金・長時間労働を強いられてきたエッセンシャルワーカーや非正規労働者は、自分たちの命を感染リスクにさらしながら出勤して働き続けるしかなく、ワクチンの職域接種でもあと回しにされがちです。

 人間の手による自然破壊という点でも、コロナは象徴的でした。森林伐採や大規模農場開発などの自然破壊によって、これまで奥地に封じ込められていたウイルスが人間社会に入り込みやすくなっています。

 利潤を際限なく追求する資本主義の弊害が、コロナ禍では次々に可視化されたわけです。つまり、コロナは危機の原因ではなく、資本主義の必然的な結果だというのが大事なポイントです。