ハーバードビジネススクールのMBAプログラムで人気講座「起業家精神とグローバル資本主義」を教えるジェフリー・ジョーンズ教授。コロナ禍での世界経済に起こった変化や、中国の台頭をどう見ていたのか。また、これからの10年で世界はどう変わるのか。歴史的視点を踏まえて詳しく語った。(聞き手/作家・コンサルタント 佐藤智恵)
中国は90年代の予想とは
「逆の方向に進んだ」
佐藤 新型コロナウイルスの感染拡大は世界にどのような影響を与えたと思いますか。
ジョーンズ 経済史の観点からパンデミックの影響を分析するにはまだ早いと思います。ただし確実に言えるのは、パンデミックが世界経済における中国の存在感を増大させたことです。
パンデミック下で中国は感染の抑制に成功しただけではなく、短期間で多くのイノベーションを創出し、驚異的な技術力を世界に見せつけました。まず何よりも中国は2種類の新型コロナウイルスワクチンの開発に成功し、WHOに承認されました。WHOが欧米以外で開発されたワクチンを承認したのは初めてのことです。さらに今年5月には、中国の火星探査機が初めて火星への着陸に成功しました。2020年と2021年は、中国が、その技術力と危機対応能力を世界に示した象徴的な年になったのです。
一方、中国の地政学上のライバルであるインドは、パンデミックで大きな打撃を受けました。同じくヨーロッパ経済も大きく沈みました。結果的にアメリカと中国が浮上し、現在は二強体制となっていますが、アメリカは大きなリスクを抱えています。それはアメリカの民主主義社会が脆弱(ぜいじゃく)であることです。いつ何時、腐敗したポピュリズムに陥るか分からない。そうなれば世界をけん引する経済大国としての地位も危うくなってしまうでしょう。
佐藤 歴史的な観点から見て、中国が2020年代にこれほどの経済大国に成長すると想定していましたか。