「不況が長引く中で、キャリアアップできる転職は難しくなっているのでしょうか?」

 新聞や雑誌の記者の方々から「日本の雇用」や「転職市場」をテーマにした取材を受ける時、もっとも多い質問のひとつが、この質問です。と同時に、もっとも古い質問でもあります。「1991年のバブル崩壊直後」や「1997年の金融ビッグバン直後」、「2008年のリーマンショック直後」といった“不況期”に、少なくとも20年間は、聞かれ続けている質問だからです。

「失われた20年」と言われるバブル崩壊以降の雇用関連のニュースは、当然のことながら明るい話題は少なく、中途・新卒問わず、どちらかというと厳しい話題が圧倒的に多いわけですが、転職市場についての取材では、この質問が不動のトップです。

 結果的に、社会人の雇用情勢に関するニュースの論調は以下のようになります。

(1)不況発生 → (2)リストラ活発化 → (3)中途採用の基準が厳しくなる → (4)転職がままならない → (5)キャリアダウン転職が増える、または失業が増える → (6)国と産業界による本格的な雇用対策に期待するまたは、スキルや資格取得で防衛する必要がある。

 総論としては確かにその通りだと思います。ただ、その背景には、もう少し複雑化した状況や過去からの変化があるので、改めて整理したいと思います。

雇用環境の激変で
語れなくなった「一般論」

 まず、大前提として、特に97年以降の雇用環境の激変によって、転職市場に関して「一般論」を語ることがきわめて難しくなっています。

 冒頭の質問以外にも、たとえば「転職のベストタイミングは?」や「転職時に狙い目の業界は?」、「売れる資格・スキルはどれだ?」などの質問に、一般論で答えても、転職市場の状況を踏まえた現実を言い表すことは、ほぼ不可能です。それは、先の問いに「ところで、それはいったい誰にとって」と付け加えると、一般化して答えられないということが、お分かりいただけると思います。