1mm単位で型紙を調整し
すべて手縫いで製作
そこで最も大事なのは服の“設計図”となる型紙作りだ。「まずは目視でお客さまの体形を観察し、肩の形や姿勢などの特徴をつかみます。採寸後、体形の癖に合わせて1mm単位で型紙を調整し、仮縫い後もラインやボリューム、シルエットを確認しつつ、お客さまの体形にピッタリ合う服を作っていきます」と言う。
第一印象を決めるVゾーンの襟のボリューム感やなじみ具合、肩から襟にかけてのラインなど微細なバランスを実現するため、工程はボタン穴のかがりを含めてすべて手縫い。“神は細部に宿る”というが、まさに一分の「スキ」もない、着ているのを忘れてしまうように心地よく、見た目も美しいスーツ作りに注力している。
より手軽なパターンオーダー、イージーオーダーなどが台頭する中、鈴木氏が手がける手縫いのフルオーダーのテーラーは減少。静岡市内では同店のみであるが、その腕に魅せられた固定客からのリピート注文が絶えることはない。
●テーラーKOTOBUKI 事業内容/注文洋服製作販売、従業員数/1人、売上高/1000万円(2020年度)、所在地/静岡県静岡市葵区城東町1-6、電話/054-245-4510、URL/tailor-kotobuki.jp
AI(人工知能)を活用した人手いらずの採寸や型紙作りの最新技術も登場しているが、「お客さまの体形のお悩みや細かいニーズに耳を傾け、お応えできるのは人の力ならではです。世界にただ一着の逸品をお届けできる付加価値、その魅力を広く伝えていきたい」と言う。
現在、ズボン担当の妻と店を営み、後継ぎはいない。だが、「日本の縫製技術は、世界トップクラスだと思っています」と語り、何らかの形で技術を継承していきたいという。また、「洋服の本場である英国のテーラーに足を運び、自身の縫製技術も試してみたいですね」と意欲的に語る鈴木氏。日本を代表する“名工”の挑戦は、まだまだ続きそうだ。
(「しんきん経営情報」2021年10月号掲載、協力/しずおか焼津信用金庫)