そして、政権幹部や与党議員は、こうして獲得した特権を手放さないよう、革新系による長期政権を志向している。国家情報院や検察組織を自分たちに都合のいいように改革し、裁判所も人事を掌握することで政権の不正が暴かれないよう仕組みを改編した。

 さらに言論仲裁法の改正によって言論統制を強化しようとした。しかし、これはさすがに民主主義の表現の自由の根幹に関わる問題であり、国連や国際メディア組織などから激しい批判を浴び、中断せざるを得なくなった。

 こうした社会の現実に直面し、国民は希望を失っている。「イカゲーム」はそうした社会への諦め、そして一攫千金の夢を唯一の希望とせざるを得ない国民の焦燥感を表したものであろう。

景気回復局面でも
格差拡大はなお続く

 現代の韓国社会の二極化に激しく反発したのが、若年層であり、その結果がソウル・釜山の2つの市長選挙である。さらに最大野党「国民の力」に36歳の若い代表を生んだ。

 こうした反発で、文在寅大統領の支持率は一時、29%まで落ち込み、不支持は51%と差が開いた。しかし、文大統領に対する支持は今では40%ほどに回復している。そして来年3月の大統領選候補を選ぶ与党「共に民主党」の予備選では、最も過激な革新系である李在明(イ・ジェミョン)京畿道知事が選出された。

 いずれにせよ、こうした特権を巡る争いを繰り返していては「イカゲーム」の社会は当分改められないかもしれない。

 中央日報は「韓国、景気反騰は確かだが…『最悪の二極化(筆者注「格差拡大」の意)がくる』」という記事を掲載している。

 韓国の経済学者の間では、韓国の景気は2017年9月から下がり始め、昨年2月から流行し始めた新型コロナの衝撃で急激に萎縮したが、昨年5月に底を打ち上昇局面に入ったと分析されている。新型コロナの衝撃が大きかった反動に加え、災害支援金のような財政効果も景気回復を後押ししたという。

 しかし、こうした景気回復は今年下半期に入って順調とはいえなくなった。韓国開発研究院(KDI)は「7月の経済動向」でコロナ第4波により経済不確実性ができたと述べており、さらに8月、9月はこうした不確実性が拡大したと評価した。

 韓国では輸出の好調と非対面サービスの普及の恩恵を受けた一部業種が景気回復をけん引する一方、自営業者を中心に内需停滞と失業増加が続いており、業種間の二極化が深まる「K字型回復」を懸念する声が出始めている。2つの市長選挙で文政権への反旗を翻したのは若年層であったが、現在は、自営業者の間で現政権への不満が広がりつつある。