少額短期保険 111社の大乱#1Photo:z_wei/gettyimages

異業種からの新規参入が相次ぎ、かつてないほどに光が当たっている少額短期保険業界。一方、光が当たったことで以前から問題視されていた陰もまた、目立つようになっている。特集『少額短期保険 111社の大乱戦』(全10回)の#1では、課題を抱えながら急成長する業界の今をレポートするとともに、戦況分析に欠かせない全社業績3期分のデータを一挙公開する。(ダイヤモンド編集部 片田江康男)

創業直後で赤字でも物色?
飛び交う少短業者の売買話

 少額短期保険業界には今、隣接業界である生命保険や損害保険のみならず、異業種からも熱い視線が注がれている。

 2017年に創業したリボン少額短期保険。認知症の人が起こしてしまった損害を補償する、個人賠償責任保険を提供している。同社はまだ創業期でもあり、収入保険料は20年度に1200万円を超えたばかりだ。

 一般的に保険会社は開業初期の事業立ち上げの費用が大きいため、開業後5年程度は赤字が続くことがほとんど。リボン少短も着実に契約者数を伸ばしてはいるものの、黒字化はまだ先のことだ。

 ところがだ。そんなリボン少短の織戸四郎社長の元に、今年の春ごろからM&A仲介会社を通じて、事業の売却と買収の両方の話が舞い込むようになったという。

「1億円でリボン少短を売却しませんか」あるいは「同業他社を買収する気はありませんか」――。

 しかし、織戸社長にその気はない。認知症保険の社会的意義と将来性に、確かな手応えを感じ始めているからだ。

「売却は致しません。この事業は間違いなく今の数十倍の価値になると思います。これから認知症患者は激増しますから、保険のニーズも高まりますし、社会のお役に立てる自信があります。収入保険料もいずれ数億円を超す規模に成長するでしょう」と、織戸社長はみているからだ。

 リボン少短に限らず、事業売買の話題には事欠かない。

 弁護士費用保険を提供しているカイラス少額短期保険は、20年2月に営業を開始したばかりだが、9月にはリーガルメディアを運営するアシロに買収されることが決定した。

 こうした注目の高まりは数字にもはっきりと表れている。右肩上がりで増加していた収入保険料は20年度に1178億円に達し、保有契約数も957万件まで伸びた。21年度には同1000万件を超えることが確実視されている。

 成熟産業である保険業界にあって、少短業界のように成長著しい市場に注目が集まるのは無理もない。だが、成長面だけが焦点となっているわけではない。

 次ページ以降では、少短業界に焦点が当たる理由に加え、業界の抱える課題、そして全111社の3期分の業績データを本邦初公開しよう(データダウンロード可能)。