少額短期保険 111社の大乱戦#8Photo by Yoshihisa Wada

保険スタートアップとして華々しく登場したジャストインケース。複数のベンチャーキャピタルから出資を受けたり、P2P保険のわりかん保険をリリースしたりするなど話題に事欠かないが、その実態はいかに。特集『少額短期保険 111社の大乱戦』(全10回)の#8では、創業から3年の知られざる苦悩を畑加寿也代表に聞いた。(聞き手/ダイヤモンド編集部 藤田章夫)

保険スタートアップの旗手
ジャストインケースの生い立ち

 保険スタートアップの旗手、justInCase(ジャストインケース)。2016年に少額短期保険の設立準備会社を立ち上げ、18年に少短登録、同時に第1弾となる保険商品を発売した。それから3年――。日本初となるP2P(ピア・ツー・ピア)の「わりかん保険」や、「コロナ助け合い保険」などを相次いでローンチし、何かと話題を呼んでいる。

 さらに、これまで発売した個人向けの保険商品から得た知見を生かし、justInCaseTechnologies(ジャストインケーステクノロジーズ)を設立。スマートフォンアプリなどを開発できる保険システム基盤など、保険会社に提供する法人向けのビジネスも展開。保険テックとしても、少短の枠を超えた事業展開を進めている。

 そのジャストインケースを率いるのは、畑加寿也氏。京都大学理学部を卒業し、保険数理コンサルティング会社ミリマンに新卒で入社した後、投資銀行や再保険会社などを渡り歩くも、一貫して保険会社向けのサービスに従事してきた。保険数理の最難関資格であるアクチュアリーであり、日本アクチュアリー会の正会員でもある。

 その畑氏が起業したきっかけは、サラリーマン時代に副業で行っていた外国人向けの民泊に、アダム・ギブソン氏が宿泊したこと。実はギブソン氏とは、米シリコンバレーの超有名なシードアクセラレーター(起業家や創業直後のスタートアップの事業成長を支援する組織)、Yコンビネータ出身の若い起業家だった。

 当時はYコンビネータのすごさを知らなかった畑氏だが、東京・新橋駅近くの大衆居酒屋でギブソン氏と意気投合。そこで、ディープラーニング(深層学習)に関する著書があることや、シリコンバレーでは「インシュアテック(保険×金融)」がものすごくはやっており、スタートアップが続々と誕生していることを初めて知ったという。

 インシュアテックにがぜん興味が湧いた畑氏は、リサーチを開始。同時にプログラミングスクールに通いながら自らプログラムを書き、スマートフォンを活用した保険ビジネスについて特許を出願、後に特許取得に至っている。そして16年、スタートアップの紹介などを行うテッククランチで、シードアクセラレーターの500 Startups Japan(現Coral Capital)に出会う。

 そして、年末に準備会社を設立。翌17年には初の資本調達を行い、数千万円を調達したとプレスリリースで発表した。さらに、この年のテッククランチでは約1000人を前にプレゼンテーションを行い、たくさんの賞を受賞した。だが、この時点で畑氏はまだ、現役のサラリーマンだった――。プレゼンの翌日、上司から電話があり、「明日から会社に来なくていいから」と告げられたという。

 アクチュアリー資格を持ち、複数回の転職を経て、サラリーマンとしてトップクラスの給料を得ていた畑氏。安定した境遇から一転、保険スタートアップの創業者として人生の転機を迎えたわけだ。

 その後は冒頭の通り、華々しいスタートダッシュを切ったわけだが、無論、この3年間が全て順風満帆だったわけではない。3年間を振り返りつつ、畑氏に知られざる苦悩や、今後のビジネス展開について聞いた。