脱炭素地獄#4Photo:NurPhoto/gettyimages

石油元売り最大手のENEOSホールディングスが、純資産約400億円の再生可能エネルギー新興企業を2000億円で買収した。実はトヨタ自動車グループや日本電信電話(NTT)グループなど脱炭素に焦りを見せるレガシー企業が、その大型買収劇に参戦していたのだ。特集『脱炭素地獄』(全19回)の#4では、買収劇の舞台裏、そしてほくそ笑む暗躍者の正体に迫った。(ダイヤモンド編集部 堀内 亮)

大型買収のれん代は1600億円
業界関係者「ENEOSはご乱心」

 日本で初めてといえる再生可能エネルギー企業の大型買収に、エネルギー業界は騒然となった。

 石油元売り最大手のENEOSホールディングス(HD)が、再エネ専業のジャパン・リニューアブル・エナジー(JRE)を2000億円で買収したのだ。総合商社関係者は「ENEOSHDはご乱心だ。あんな気が狂った価格でJREを買って、どうやって(買収を)正当化するのか」と首をかしげた。

 JREは2012年に創業した新興企業。20年12月期の連結売上高は224億円で、最終損益は9億1200万円の赤字。連結純資産は397億円で、買収額から純資産額を引いたのれん代は、なんと1603億円に上るのだ。ENEOSHDはJREにいったいどんな価値を見いだしたのだろうか。

 JREは、太陽光や陸上風力、バイオマスを合わせて総出力約42万kWの再エネ発電所をすでに稼働させている。建設中のものも含めると、JREは約88万kWの再エネ発電所を所有する。さらに政府が「脱炭素の切り札」として重要視する洋上風力発電について、JREは秋田県や長崎県、北海道でプロジェクトに参戦している。

 これに対し、ENEOSHDが所有する再エネ発電所は約13万kWにとどまる。電力、ガス、総合商社も含めたエネルギー業界の中では、ENEOSHDは再エネの開発でかなり出遅れており、別のエネルギー業界関係者は「ENEOSHDは再エネの獲得に相当焦っていた」と明かす。

 ENEOSHDがJREの2000億円もの大型買収に踏み切ったのは、脱炭素に向けた再エネの獲得に焦りを募らせたためだといえる。事業子会社ENEOSの井上啓太郎常務執行役員はオンラインの記者会見で、「事業構造を抜本的に変える契機になり、(再エネ事業を育てる)時間を買った意味もある」と述べている。

 ところが、である。この大型買収劇の裏には、再エネ獲得に焦るENEOSHDの心を巧みに揺さぶった暗躍者がいた。さらに、その強者はENEOSHD以外に少なくとも7企業グループを巻き込んだ買収劇を演出しようとしていたという。

 いったい、暗躍者とは誰なのか。JREに群がった企業グループの実名とは。ここからは、再エネ買収劇の舞台裏を詳らかにしていこう。