企業の競争力を測る物差しが「利益」から「炭素」に変わる――。非エコな企業はビジネスの参加資格すら得られず、“脱炭素地獄”に転落する危機にある。そこでダイヤモンド編集部では、統合報告書を開示している大手企業を対象に「炭素排出量と財務データ」をミックスさせた独自ランキングを作成した。特集『脱炭素地獄』の#3では、脱炭素による「脱落危険度」が高い企業の総合ランキングを大公開する。(ダイヤモンド編集部副編集長 浅島亮子)
日本製鉄のトヨタ提訴の裏に脱炭素あり
競争力を測る物差しが利益から炭素に変わる!
日本製鉄がトヨタ自動車と中国鉄鋼大手・宝山鋼鉄を特許侵害で訴えた。世界のトヨタ相手に大喧嘩を吹っかけるなど正気の沙汰ではない。電動車に不可欠な無方向性電磁鋼板に関する特許権を侵害されたというのが、表向きの提訴理由だ。
だが、日本製鉄とトヨタの対立の背景には単なる特許侵害にとどまらず根深い「対立構造」がある(対立の詳細については本特集の#2『トヨタが日本製鉄に訴えられた真の理由、中国と日鉄の二股が招いた「2年戦争」の全内幕』参照)。
要するに、日本製鉄が許せなかったのは「トヨタが日本製鉄と中国を天秤にかけて中国を選んだ」(鉄鋼メーカー幹部)ことにあるようだ。
国内大手企業の中で、日本製鉄は「脱炭素シフト」が最も難しい企業だと言えるかもしれない。鉄鋼メーカーは石炭を原料とするコークスを使って鉄鉱石を還元し、鉄を作る。そのため、製鉄過程で多くのCO2を排出してしまう。実際に、日本製鉄のCO2排出量は国内排出量の9%を占めている。いかに脱炭素のハードルが高いかが分かるだろう。
炭素を減らすために鉄鋼の作り方を抜本的に見直すにも、電動車向け電磁鋼板の開発・設備投資を加速するにも、巨額のコストが必要になる。にもかかわらず、虎の子の電磁鋼板技術が中国メーカーへ流れていくーー。日本製鉄には、トヨタが技術流出に手を貸しているように映ったのかもしれない。
企業の競争力を測る物差しが「利益」から「炭素」に変わる――。炭素をたれ流す非エコな企業は、ビジネスの参加資格すら得られない状況が現実のものとなりつつある。
典型的なのが米アップルの方針だ。2030年までにサプライチェーンの100%において脱炭素を達成するとしていて、それに対応できないサプライヤーはアップルと取引できなくなる。
目下のところ、日本企業に差し迫っている関門は、脱炭素リスクの開示だ。主要国の金融当局が中心となって設立された「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」の提言に基づく気候変動リスクの情報開示が、順次義務付けられる方向で議論が進められている。来年4月には東京証券取引所が再編されるが、その“最上位”であるプライム市場の上場資格として、TCFDに準拠した情報開示が義務付けられている。
炭素を減らす取り組み、ビジネスモデルのチェンジ、脱炭素リスクの情報開示に伴う事務的コストの増加――。脱炭素が企業に大きな負荷を強いることになることは間違いない。
そこでダイヤモンド編集部では、統合報告書を開示している大手上場企業を対象に「炭素排出量と財務データ」をミックスさせた独自指標を設定し、ランキングを作成した。
以降では、脱炭素による「脱落危険度」が高い企業ランキング【ワースト421社】を大公開する。