岸田首相が掲げる「信頼と共感」は、昨年の党総裁選で争った石破茂元幹事長が掲げていた「納得と共感」と酷似する。所信表明演説で2度も言及した「早く行きたければ一人で進め。遠くまで行きたければ、みんなで進め」ということわざも、ノーベル平和賞を受賞した米国のアル・ゴア元副大統領が受賞時に引用したことで知られる。

 岸田首相は演説で「デジタルインフラの整備を進める」と強調した上で、デジタル時代の信頼性ある自由なデータ流通、「DFFT(Data Free Flow with Trust)」を実現するため国際的なルールづくりに積極的な役割を果たしていく考えも表明した。

 ただ、これも19年6月28日にG20大阪サミットのデジタル経済に関する首脳イベントで、当時の安倍首相がスピーチしたものと変わらない。安倍氏は「DFFT、すなわち信頼たるルールの下でデータの自由な流通を促進しなければならない」として、世界貿易機関(WTO)での電子商取引に関する交渉を進めていく必要があると強調していた。

パクる、ブレる首相のイメージがつけば
選挙戦にマイナスの影響との悲鳴

 繰り返すが、政策や主張に「著作権」はない。良い部分は採り入れ、成長や発展につなげてきたのも憲政の歴史である。ただ、予想以上に野党で候補者の一本化調整が進み、厳しい戦いを強いられる自民党中堅議員の一人は、総選挙を前にした首相の姿勢に懐疑的だ。

 その理由には、学校法人「森友学園」への国有地売却を巡る公文書改ざん問題に対する首相の説明が揺れたことや、総裁選で掲げていた「金融所得課税の強化」は首相就任後になって当面見直さない考えを示すなどの「ブレ」がある。「パクる、ブレるというイメージが首相についてしまうと選挙戦にもマイナスの影響が出る」との悲鳴も自民党内から聞こえる。

「新しい時代を皆さんとともに。」を自民党の新しいキャッチフレーズにした岸田首相。新時代のビジョンも、得意の「聞く力」で国民から吸い上げていくようである。