的場:これまでの経済学では恐慌が起きてデフレになると、通貨量を増やして経済を活性化させるという伝家の宝刀がありました。ゼロ金利政策はまさに資本主義経済学の伝家の宝刀です。日本はその刀を抜きましたし、アメリカも抜いた。ところが、現在のデフレにはまったく効果がありません。バーナンキはそれを日本の状況を見て学びました。また、ノーベル賞を獲った有名な経済学者も、日本の政策についてあれこれ批判しましたが、アメリカのデフレには有効な手段を示せていません。

池上:アメリカはバイデン政権になって、必死にインフレにしようとしています。たくさん公共事業を打って、経済を活性化しようとしていますが、これはちょっと前のアベノミクスと同じですよね。そうしたことを見ると、やはり日本の資本主義は先に進んで、最先端であるがゆえの様々な問題に直面している、ともいえるのだと思います。

 そうなると、厳しいのはまったくモデルがないことですね。これまでは、アメリカなりイギリスなり、資本主義先進国が通ってきた道を追随することができました。要するに、彼らがやってきたことをマネすればよかったわけです。

 ところが、日本が資本主義の最先端にきてしまうと、マネすべきモデルがありません。モデルがないどころか、逆に世界中が現在の日本に注目しています。資本主義が行き着くところまで行ってしまった現在の日本が、経済発展しなくても幸せな国を作れるのかどうか、世界はかたずを飲んで見守っているのです。

的場:資本主義はこれまで発展と成長の中で進化してきたわけですが、発展しない資本主義がありえるとしたら、それはどのように機能するのか。まさにいま日本はその実験を行っています。

 世界の主流の学者は、まだ成長できる余地はあると考えていますが、世界中が日本と同じ状態になったら、もしかすると成長しない経済が一般化するかもしれません。そうなると、これをどう機能させていくかということですが、おそらく資本主義は機能しなくなるでしょう。資本主義は資本の増殖が前提ですから、それができなくなった瞬間に終わりを迎えます。