変減速機から造船、建機に半導体製造装置まで……。事業領域がとてつもなく広い住友重機械工業だが、多角化の根底には銅山機械の製作・修理で培った共通の信念と技術力があった。しかし、製品ラインアップが多いことで、かえってグローバル競争に劣後する可能性はないのか。特集『三井住友 名門「財閥」の野望』(全18回)の#16では、脱炭素をはじめとしたSDGs(持続可能な開発目標)への関心が急激に高まる中、住友重機がもくろむ成長戦略について、下村真司・住友重機社長に聞いた。(ダイヤモンド編集部 新井美江子)
やみくもに手を広げてきたわけじゃない!
広過ぎる事業領域の謎を解明
――住友重機械工業は、変減速機から造船、建設機械に半導体製造装置と、事業領域がとてつもなく広い。どのような基準で多角化を進めてきたのですか。
われわれの原点は、住友の事業発展の源泉となった別子銅山(愛媛県新居浜市)における銅山機械の製作や修理にあります。つまり、機械化という新しい技術によって働く人を苦労や負担から解放したり、生産性を向上させたりするという理念が住友重機の根底に流れている。
そのこと自体が住友の精神につながります。例えば、住友がかつて「南蛮吹き」(南蛮人〈ヨーロッパ人〉に原理を聞いた粗銅から銀を分離する精錬技術)を苦心の末に開発し、それを同業者に広めたことにも通じますよね。
その理念を基に多角化の経緯について説明すると、われわれは物を運んだり、動かしたりする機械の製造や修理から始め、技術を極めていった。さらにそれだけではなく、時代の要請に合わせて物の形を変える機械にも進出していったということです。
形を変える機械でいえば、まずは製鉄機械ですよね。日本の近代化に合わせて、旧住友金属工業(現日本製鉄)など鉄鋼企業の事業拡大に対応したわけです。その中で製鉄機械に使われていた歯車に特化し、変減速機や大型のギヤボックス(歯車装置)などの製品に磨きをかけた。
一方で最先端の技術にも取り組もうと、粒子加速器の開発にも着手した。その加速器の技術が今では医療用機器や半導体製造装置に生かされている。建機も、「動かす」に関連して展開していた運搬機械事業の一環として進出しています。
――なるほど。やみくもに手を出したわけではなく、技術を発展、進化した結果、ここまで事業領域が広がったということですか。ただ製品ラインアップが多いことで、かえってグローバル競争に劣後する可能性はありませんか。例えば建機業界では、米キャタピラーやコマツ、日立建機などが大手専業メーカーとしてしのぎを削っています。