投資家の判断を狂わせる「ミスター・マーケット」に要注意な理由Photo:PIXTA

投資家の判断を鈍らせる
“ミスター・マーケット”とは?

 ベンジャミン・グレアムといえば、1930年代に活躍した経済学者で、投資家としても有名な人物である。世界最高の投資家といわれているウォーレン・バフェットも彼に学んだことは多く、「バリュー投資の父」「ウォールストリートの最長老」といわれる伝説的な投資家と称されている。

 彼には資産運用に関するいくつかの名著があり、多くの投資家は彼の考え方に少なからず影響を受けてきたのだが、その彼の最も有名な著書に『賢明なる投資家』(原題:The Intelligent Investor)という本がある。その本の中で、彼は“ミスター・マーケット”なる人物を紹介している。本文をそのまま紹介してみよう。

「ミスター・マーケットは、毎日投資家の家を訪れる。彼はドアの前に現れては、毎日違う価格で株の売買を持ちかけてくる。ミスター・マーケットによって提示される価格は、しばしば妥当なように思えるが、それはしばしば馬鹿らしい価格のときもある。投資家は、彼の提示した価格に同意し取引してもよいし、彼を完全に無視してもよい。いずれにしろミスター・マーケットは、翌日も他の株式の価格を引き合いに投資を持ちかけてくるのだ」

「問題は、ミスター・マーケットが気まぐれで提示してくる価格に振り回されてはいけないということである。投資家は、市場に参加することではなく市場の愚かさから利益を得るべきである。投資家は、ミスター・マーケットがしばしば行う不快な言動に対して、過度に気をとらわれるよりも、むしろ現実世界の会社のパフォーマンスに注目し、割安な株式を取得することに集中する方がよい」

 ここで紹介されている“ミスター・マーケット”は別に証券会社の営業マンのことを指しているわけではない。

 既におわかりと思うが、株式市場の株価の動きを擬人化して表している言葉なのだ。株価についてよく言われるのが、「短期的な値動きをパターン化できるような法則は存在せず、株価は俗に言うランダムウオーク(酔っ払いの千鳥足)をするものだ」ということである。いわばこのフラフラした不安定な動きそのものがミスター・マーケットなのだ。

 別な言い方をすれば、価格の動きによって私たちの心を惑わす存在がミスター・マーケットと言ってもいいだろう。ミスター・マーケットは株式市場に限らず、古今東西を問わずどんな市場にも出没する。