絶大な力を持つ
警察官の組合

 実は表向きの理由は一般の国民のそれとたいして変わらない。「不確かな情報」「陰謀論」「医療不信」「宗教的理由」「政治的信条」などだ。

 しかしひとつ大きな違いがある。それは保守的な警察組織の中で絶大な力を持つ警察官の組合の存在である。

 アメリカ最大の都市のひとつ、シカゴで起きた騒動はまさにその縮図といえる。

 接種義務の期限を迎えたシカゴ市当局は10月15日、約1万3000人の警官を代表する組合と組合代表で元警官のジョン・カタンザラを提訴し、接種義務の履行を妨害する行為の差し止めを求めた。

 トランプ前大統領の熱烈な支持者であるカタンザラが「接種義務化は違法だ。接種の有無を報告する義務などない」と組合員である警察官たちに伝えていたからだ。

 裁判所は即日、カタンザラに行為差し止めを命じた。だが未接種の警官たちは業務に就けず、年金受給資格の失効や解雇もありえたことからストライキに発展する恐れがあった。警察官によるストライキはすぐさま治安の悪化につながる。

 ところが、「(警官の)人員不足でどんなことが起きようと、責任は市長にある!」と同氏はトランプ流の脅しでさらに反発を強めたから厄介だ。

 結局、市側が譲歩しライトフット市長は週2回の感染検査の報告を条件に接種義務の順守期限を年末まで延期すると発表したのである。早い話が組合の圧力に屈したのである。

 その他にも、東部メリーランド州ボルティモア市では、接種期限になっても接種の有無を報告しないよう組合が警察官たちに通達を出している。

 また、北東部マサチューセッツ州の警察官の労働組合によれば、何十人もの警察官が辞職を願い出たという。同州のチャーリー・ベーカー知事(共和党)が10月17日までに警察を含むすべての州政府機関の職員にワクチン接種証明書を提出することを命じたからだ。