スティーブ・ジョブズがいなくても
企業はデザインの力を最大化できる

企業の可能性を引き出すデザインの可能性とはグラフィックデザイナー/日本グラフィックデザイン協会会長。TSDO代表取締役会長。
1979年東京藝術大学デザイン科卒業、1981年同大学院修了。株式会社電通を経て、1984年佐藤卓デザイン事務所(現 株式会社TSDO)設立。「ニッカウヰスキー ピュアモルト」の商品開発から始まり、「ロッテ キシリトールガム」、「明治おいしい牛乳」のパッケージデザイン、「PLEATS PLEASE ISSEY MIYAKE」のグラフィックデザイン、「金沢21世紀美術館」、「国立科学博物館」、「全国高等学校野球選手権大会」のシンボルマークデザインなどを手掛ける。また、NHK Eテレ「にほんごであそぼ」アートディレクター、「デザインあ」総合指導、21_21 DESIGN SIGHT館長を務めるなど多岐にわたって活動。 展覧会に、『water』『縄文人展』『デザインの解剖展』『デザインあ展』など。著書に、『塑する思考』(新潮社)、『大量生産品のデザイン論-経済と文化を分けない思考-』(PHP新書)など。 
Photo by ASAMI MAKURA

――経営者自身がアイデア主導でビジネスを考えることができる、すなわちデザインマインドがある企業が強いというのはうなずけます。とはいえ、ジョブズのような人物はそうそう出てこないのが現実かもしれませんが。

 経営トップでなくても、これまで私が一緒に仕事をさせていただいた方々の中に、デザインマインドをお持ちの方は何人かいらっしゃいました。その方たちは「デザインのことはよく分からないんだけど……」とおっしゃることが多いんですが。

 例えば、私がこれまでに携わった商品ブランディングの仕事で、20年以上前に発売され、今ではロングセラーとして定着している牛乳やチューインガムがあります。それらの商品が生まれ、定番となっていく局面には必ず、メーカーさんの社内にキーパーソンがいました。その人たちは、私が、さまざまな商品のどこがどういいのか、何が良くないのかを明確に言葉で説明したり、なぜ市場の分析ではなくアイデアが重要なのかを説明したりすると、食い入るように聞いてくれ、次々に質問を投げ返してくるのです。

 そうしたやりとりの中でその人たちは「アイデアを言語化し、具現化する」というデザインの役割を理解し、そしゃくして社内に伝え、デザイナーと社内のコミュニケーションのハブとなってアイデアを実現に導いていきました。そうした人たちこそが、デザインマインドが豊かな人だと思います。

 さらに言えば、デザインは商品開発部門などでイノベーションを生み出す人だけのものではなく、そもそもデザインと無関係な業務はありません。社内文書一つ取っても、どうしたら無駄なく、相手に正確に伝わるかを考えるのがデザインマインドなんです。そうしたマインドを持っている人が多い会社は、何が起きても強いだろうと思いますね。

 経営者が豊かなデザインマインドを持っていれば理想的ですが、必ずしも経営者本人が兼ね備えていなくてもいいと思います。側近として、経営層にデザインマインドを持ったチーフ・デザイン・オフィサー(CDO)を置けば、重要な判断にデザインの力を活用することはできます。逆に、デザイン部門を商品開発の最下流に置いていては経営には生かせません。組織づくりもまた「デザイン」なのです。