ヴァイキングの系譜にあるイギリス、ノルウェー、スウェーデン、デンマークがいかにEUの主要メンバーと異なる意識を持っているかは、その通貨によく表れている。イギリスのみならず、ノルウェー、スウェーデン、デンマークは、ともにユーロの導入を拒否し、独自の通貨を保持しつづけてきている。ユーロを導入しようと思えばいつでも歓迎されるほどの経済力、信用力を保持しているにもかかわらず、だ。

 しかも、ノルウェーの場合、EUに加盟さえもしていない。スウェーデンのEU加盟はかなり遅れてのことであり、そもそもイギリス、ノルウェー、スウェーデン、デンマークは、ユーロに、さらにはEUにさえも懐疑的だったのだ。だからこそ、イギリスのEU離脱は歴史的な必然ともいえるのである。

現代もなおヨーロッパを呪縛する王家の歴史

 現在、ドイツやフランスではとうの昔に王家は打ち倒され、王家は存在しない。けれども、王家が消滅しようと、王家のあった歴史とその記憶は、現在をも「呪縛」する。古代の「ローマ帝国」や中世の「フランク王国」に起源を求めようとしてきたドイツやフランスには、「ヨーロッパ連合」への憧れがある。それは、「フランク王国」の再現でもある。

 けれども、「フランク王国」とはなんら関係のない、ヴァイキングによる起源を持つイギリス、ノルウェー、スウェーデン、デンマークには、「ヨーロッパ連合」への執着はさほどないといっていいのだ。

 このように、多くの王家が滅びてのちも、王家の歴史と記憶は、ヨーロッパに強い影響を残している。なぜならば、ヨーロッパの王家の歴史は長く、およそ1000年以上に及ぶからだ。それも、フランスにせよ、ドイツにせよ、王家の誕生とともに彼らの国の歴史がはじまっている。フランスの歴史であれ、ドイツの歴史であれ、直近の100~200年間を除いては、王家の歴史なのだ。

 そのヨーロッパの王家の歴史とは、戦いと婚姻の歴史である。王たちは領土の拡大欲求に駆られ、戦いに明け暮れ、その一方、身分の高い女性と婚姻を重ね、多くの子孫を残そうとした。

 そこから先、多くの政略結婚がなされ、ヨーロッパの王家同士は親戚同然になったのだが、彼らは仲の悪い親戚の典型でもあった。調子がいいときは、お互いが徹底利用しようとする一方、情勢が変わると、たとえ親戚であっても、冷酷に対応する。もちろん、王家の内部でもいざこざは絶えない。叔父や弟だって、王位を狙って策動を仕掛けてくるから、王位は安泰ではない。

 こうしたヨーロッパの王、王族たちのあまりに人間臭い営み、愛欲によって、ヨーロッパの歴史はかたちづくられていった。庶民の歴史参加などたかだか200年にも及ばない。ヨーロッパをつくったのは王たちの壮大な家族ゲンカの歴史といっても過言ではないのである。