コロナ禍で表面化した貧困は
日本社会の潜在的な問題だった

 これらの三つの医療費に関する特例措置のほかにも、国民年金保険料の免除や納付猶予を受ける場合もコロナ特例で利用要件が緩和され、コロナを原因とした減収見込みで免除や猶予措置が利用できるようになっている。

 また、会社員など被用者の健康保険料や厚生年金保険料も特例が設けられている。新型コロナウイルス感染症の影響で休業し、給与が著しく下がった場合は、労働者本人の同意を得られれば、翌月から標準報酬月額を改定でき、労使ともに保険料負担が下がるのだ。

 このほか、各種税金の猶予、生活資金の貸し付け、家賃補助、休業手当への財政支援などを総動員して、コロナ禍によって生活に困窮する人々を救済するための特例措置が行われてきた。

 だが、生活に困窮する世帯は、突然発生したわけではない。貧困問題はコロナ禍以前から日本社会に潜在的にあった。それがコロナにより表面化しただけだ。

「国民生活基礎調査の概況」(2019年、厚生労働省)によると、18年の相対的貧困率は15.4%。子どもの貧困率も相変わらず深刻で、7人に1人が貧困状態にあることが報告されている。なかでも貧困率の高さが際立つのがひとり親家庭で、48.1%が貧困線以下の暮らしを強いられている。その多くが、アルバイトやパートなどで働く非正規雇用の労働者だ。

「労働力調査年報」(2020年、総務省統計局)によると、20年の全労働者に占める非正規雇用の割合は37.1%(男性22.1%、女性54.4%)。正規雇用の労働者に比べると、年収も大幅に低い。男性は28.9%、女性は42.6%が、年収100万円未満だ。年収100万円未満では、社会保険の加入要件も満たさないため、病気やケガをして働けなくなったときのセーフティーネットも、正規雇用に比べると乏しい。

 厚生労働省の「新型コロナウイルス感染症に起因する雇用への影響に関する情報について」(21年11月5日現在)によると、コロナ禍による解雇や雇い止めは、累計11万9862人に及んでいる。

 以前からギリギリの収入で暮らしていたところへ、コロナ禍が発生。国の休業要請に従って、パート先の飲食店などが営業を自粛したことで、収入の道を閉ざされた非正規雇用の労働者が困窮を深めていった。日本の社会に根深く存在していた貧困が、コロナ禍によってあぶりだされ、一気に顕在化した形だ。