◇仮説の立て方

 観察を邪魔する「認知バイアス」「身体・感情」「コンテクスト」の3つを著者は「メガネ」と呼ぶ。「認知バイアス」とは常識、偏見、言葉、概念などを指す。実は人は目で見ているのではなく、脳が先に何を見るかを決めており、バイアスはこの脳の認知に作用する。では「身体・感情」はなぜ観察の邪魔になるのだろうか?観察は五感によって行われるが、疲労などの肉体のコンディションや喜怒哀楽といった感情は観察の質に影響を及ぼす。最後は「コンテクスト」だが、これは例えばある人の格好を見て「だらしない」と思うか、あるいはTPOに相応しいリラックスした格好と感じるかは、状況によって変わる、といったものだ。

 人間がものを見るとき、これらの要素の影響を受けることは免れない。この「メガネ」を完全に取り去ることはできないが、それを自覚した上でこの「意識的なメガネ」を、自らの「仮説」として観察の際に用いることを著者は勧める。例えば、ニュートンの「万有引力の法則」は、もともとは「なぜリンゴは地面に落ちるのだろう?」という極めてシンプルな問いから始まっている。歴史に残る偉大な発見も、最初はごく単純な問いにすぎない。ありふれた問いを仮説と観察の積み重ねで更新しよう。

 では優れた仮説はどのように立てればよいのか?まずはできるだけ主観を排除しながら自らの目で見たものをひたすら言葉にする「ディスクリプション」を行う。二つ目は、他者がどのようにディスクリプションしているかを「真似る」。三つ目は「統計データ」を用いる。これらの行為を行う際には、適切なタイミングで客観的に、またあるときは主観的になることが重要であると著者は考える。主観と客観のスイッチを適切に切り替えることによって観察の質を上げることが可能になる。

 編集者として『ドラゴン桜』や『宇宙兄弟』など多くのヒット作品を生み出してきた著者は、かつては仕事に必要なのはホームランであると考えていた。しかし経験を重ねるうちに、最も大切なのは「普通」であり続けることであると気づくに至った。そのためにまずやるべきことは、他者や、すでにある普遍的な「型」を徹底的に真似て基本を身につけることだ。「真似る」ことの繰り返しの中で観察の解像度が上がり、自ずと湧き上がる自分の欲望や関心からやがて「オリジナリティ」が生まれてくる。

【必読ポイント!】
◆「見えないもの」を観察する
◇「感情」と「関係性」

 これまで述べてきた「見えるもの」の観察はある程度再現性があるが、では「見えないもの」を観察するにはどうすればいいだろうか。

 見えないものは歴史に記録されていなかったり、あるいは後世の人間には理解できない形で残されている。しかし著者は、社会を本当に動かしてきたのはそのような「見えないもの」なのではないか、と考える。