本書の要点

(1)最も応用が効き、かつ経営や創作に役立つ能力は「観察力」である。「観察力」を鍛えることで、他の能力も必然的に向上させることができる。
(2)「認知バイアス」「身体・感情」「コンテクスト」の3つが観察を阻む要因であることを認識し、これらを「仮説」として用いることでいい観察ができるようになる。
(3)「いい観察」により、バイアスのかかった無意識下での判断を避け、多様性を受け入れる「あいまい」な思考をすることが可能となる。

要約本文

◆観察力について
◇「いい観察」と「悪い観察」

 ピラミッドを作った人や日本地図を作った人、そして「万有引力の法則」を発見したニュートンのような過去の偉人とわたしたちの差は何だろうか。編集者である著者は、「観察力」の差であると考えた。では「観察力」とは一体何か?

 著者によれば、「観察力」とは経営や創作に役立つ能力であり、これを鍛えれば必然的に他の能力も鍛えることができる、いわば「ドミノの一枚目」だ。「客観的になり、注意深く観る技術」と「組織的に把握する技術」の組み合わせが「観察力」と言えるかもしれない。本書が着目するのは、「客観的になり、注意深く観る技術」である。

「観察」について考えるにあたり、著者は漫画家の羽賀翔一氏の成長を「観察」した。新人の頃の羽賀氏は著者が経営するコルクの社員を観察して一日1ページの漫画を描いていた。これは著者の発案で行われたものだったが、「半径5メートル以内の出来事を毎日1ページマンガにする」という課題を続けることが羽賀氏の観察力を鍛え上げ、この成果はやがて『漫画 君たちはどう生きるか』の大ヒットという形で結実した。

 著者は羽賀氏の経験から観察力の鍛え方に再現性を持たせることを試み、この本の執筆に際して二年近い時を費やして「観察」についての考察を行った。そして辿り着いた仮説で「いい観察」と「悪い観察」について次のように定めている。「いい観察は、ある主体が、物事に対して仮説をもちながら、客観的に物事を観て、仮説とその物事の状態のズレに気づき、仮説の更新を促す。一方、悪い観察は、仮説と物事の状態に差がないと感じ、わかった状態になり、仮説の更新が止まる」というものである。

 いい観察によって問いと観察の無限ループを生み出し、悪い観察を避けることが重要だ。悪い観察を避けるには「認知バイアス」「身体・感情」「コンテクスト」という解像度に影響を及ぼす3つの要因に注意し、観察の精度を高めることを心がけよう。