与党「共に民主党」の大統領候補である李在明(イ・ジェミョン)氏の主張を聞いていると、文大統領以上に歴史の改ざんを進めるのではないかと思われる。歴史の真実は一つであり、それは施政者が恣意(しい)的に決めるのではなく、研究者が史実をベースに分析してまとめ上げるものである。

 しかし、李在明氏の姿勢は、歴史を恣意的に解釈して他人に有無を言わせぬもののように思われる。それは国内政治の保革対立のみならず、日韓関係にも及んでいる。そこには歴史の客観性はなく李在明氏の主張があるのみである。

文在寅政権による
二つの歴史改ざん

 文在寅政権が国内政治で行った最大の歴史の改ざんは、「積弊の清算」であり、朴正煕(パク・チョンヒ)元大統領が進めた経済成長路線「漢江(ハンガン)の奇跡」の否定である。

 朴正煕氏は、1人当たりGDPが100ドル未満であった韓国を、1人当たり3万ドル超えの世界10位に入る経済国に成長させる基盤を築いた。

 しかし、文大統領にとって、朴正煕氏は軍人出身大統領であり、独裁者。多くの革新系人士を迫害・死亡・投獄させた。朴正煕氏の業績を認めることはできない。韓国経済が先進国になったのは文政権の業績であり過去の保守政権の業績を認めることは革新政権の継承に悪影響を及ぼしかねない、との認識なのであろう。結局、「漢江の奇跡」を韓国の学習教科書から削除し抹殺してしまった。

 第二の歴史の見直しは5・18光州事件に関するものである。これはクーデターで政権を握った全斗煥元大統領が1980年、光州における民衆蜂起を空挺部隊の一斉射撃で鎮圧した事件である。死者は154人、負傷者は3028人、デモ参加者は一時20万人に上ったとも言われる。

 文大統領は、光州事件の解明が不十分であるとして、見直しを進めている。20年の「光州民主化運動関連改正法では「歪曲(わいきょく)・捏造」に対し7年以下の懲役、7000万ウォン以下の罰金を含む厳罰を科すこととしている。文政権が考える光州事件の歴史を作り上げようとするものである。

 ちなみに、全斗煥氏は23日に死去したが、文政権は国葬とはせず、過去のクーデターや光州事件での軍事力行使を非難する姿勢に終始している。

 しかし、全斗煥氏の時代には、北朝鮮では金日成主席が存命であり、国力面でも北朝鮮が韓国をしのいでいた面が多かった。全斗煥氏が、朴正煕氏暗殺の社会的混乱を抑えていなければ再び北朝鮮の侵略におびえなければいけない状況となっていた可能性がある。全斗煥氏の強権力の行使は社会的混乱を抑え、経済を安定成長の軌道に戻すためだったとみることもできる。

 後世の歴史家が全斗煥氏をどのように評価するか、おそらく文大統領とは異なるだろう。