東京オリンピックが開催された1964年には、過去最高の168万ケースを記録。「今、日本で一番売れているチリワインの『アルパカ』が年間約150万ケースですから、それを上回る規模です。赤玉ポートワインは、日本人のワインの原点と言える存在なのかもしれません」

 赤玉ポートワインを原体験とする日本人のワインの嗜好(しこう)は、一貫して甘口だったと森田氏は言う。

「日本のワイン市場において、フランスワインは圧倒的な存在感がありますが、元々はドイツワインの消費量の方がずっと多かったんですよ。フランスワインの販売量がドイツワインの消費を抜いたのは、1985年です。それまでは、フルーティーでやや甘口のドイツワインやポルトガルのロゼワインが人気でした。日本人にとってはまだ、渋味や酸味の強いワインは抵抗があったんでしょうね」

7度のブームを経て
ワインが生活に定着

 ここで、改めて日本におけるワインの歴史を振り返ろう。国内では過去、何度も「ワインブーム」が起きている。最初の「ブーム」とされるのは、外国産ワインの輸入が自由化された1970年代前半だ。日本では第二次大戦後、外貨割当制度のもとでワインの輸入が規制されており、指定業者でないとドルを保有して海外のワインを輸入することができなかったのである。

 東京五輪(64年)や大阪万博(70年)を経て食生活の洋風化が進んだところに、ワインの輸入自由化は強烈な追い風となった。72年にはサントリーが「金曜日はワインの日」というキャンペーンを展開。週休2日制の広がりとともに家庭でワインを楽しむ文化が広がった。とはいえ、当時の日本人1人当たりの年間ワイン消費量は、わずか100mlにすぎない。

 第2次ブームは、1000円の国産ワインが登場した78年頃。日本人の味覚に合わせた味わいと価格で間口が広がった、第3次ブームは、山梨の地ワインとして知られていた低価格大容量の一升瓶ワインが全国区の人気を集めた82年頃。80年代後半にはワインの関税が引き下げとなり、輸入ワインの銘柄が一気に広がる。そしてバブル景気の幕開けとともに、高級ワインやボージョレ・ヌーボーを中心とする第4次ブームが巻き起こり、88年にはようやく1人当たり年間消費量がボトル1本を超えた。