日本酒には最低製造数量基準があり、年間60キロリットルと設定が高かった。一方で、海外での日本酒ブームも相まって、2020年度の税制改正において、「輸出向け」に限り、清酒製造免許の新規発行が許可されるようになったが……。酒と法律の切っても切れない関係について、元・国税庁酒類担当審議官の刀禰俊哉氏に聞く。(ダイヤモンド編集部 深澤 献、編集者 上沼祐樹、フリーライター 藤田佳奈美)
付加価値の高い日本酒が
作りにくかった日本の法律
1953年に定められた酒税法。酒類の製造・販売といった免許関係のものと、酒税の課税標準や税率、税務申告など酒税の仕組みについてと、大きく二つに分けられる。2017年には大きな酒税法改正が行われた。類似しているお酒の間の税率が異なっていたためだ。ここでは段階的に改正を実施し、2026年10月に、日本酒、ワイン、酎ハイの税金がすべて同じになるよう設定されている。
さらに、ビールが減税され、第3のビールが増税されることでこちらも税金が同額に。日本酒やビールは減税となり、発泡酒、第3のビール、酎ハイ、ワインは増税となるのだ。酒類間の税負担の公平性を回復するための実施である。こういった法改正が商品開発にどのように影響するか、注目の集まるところである。
日本酒の歴史のなかで、自家醸造を禁止してきた背景がある。免許を持っていない人は造ってはいけない制度だ。そもそも日本酒の免許取得には「最低製造数量基準」というものがあり、年間60キロリットルと非常に高い数字が設定されていた。素人レベルの製造でこのボリュームは現実的ではない。
ただ、税制改正(2020年度)において「輸出用清酒製造免許制度」が新設されたことで、少し様子が異なってきた。既に今年4月から免許の申請受け付けが始まっている。
「酒税確保のためには製造元の経営安定が重要という考えから、これまで最低製造数量が設けられていました。清酒の場合だと年間60キロリットルです。業界用語では『石高333石』というのですが、これを一升瓶に換算すると3万3333本となります。一升瓶の値段が仮に2000円とすると、約6600万円の売り上げ。酒造りは装置産業でもあるので、設備費、原料費、光熱費、人件費がかなりかかる。
ですので、少なくともそれぐらいの売り上げが確保できないと、経営が安定しないという考え方です。酒税は、お酒を製造したら利益の有無にかかわらず納めないといけないものですので、会社の利益から納める法人税とは性格が異なります」(刀禰俊哉氏、以下カッコ内は同)