日本酒が世界の「SAKE」としての地位を築くカギは、ワインの来し方を振り返ることにあるのではないか──。自らもSAKEビジネスに関わる中田英寿氏はそう問題提起する。ワインが世界で受け入れられたのは決してその味わいだけが理由ではない。歴史上のある時期にワインが急に美味しくなったからではなく、ワインを取り巻くさまざまな人々の取り組みがあり、それらが仕組みとなって広がって今のマーケットが作られた。ここが、中田氏が喝破する、最も学ぶべきポイントだ。(ダイヤモンド編集部 深澤 献、編集者 上沼祐樹、フリーライター 藤田佳奈美)
「マーケットに委ねる」のではなく
自分たちで「マーケットを創る」
2006年にプロサッカーを引退した中田英寿氏は、09年から日本各地を巡り、日本文化や地域の伝統産業を知る旅を続けてきた。旅の先々で酒蔵をはじめ、伝統工芸や農業の生産者と会って実感したのは、こうした伝統産業と呼ばれる分野における情報量の少なさだったという。
旅の過程で生産の現場を間近で見て、“良い物”とはどういう背景や条件に基づいていて、どんな人たちがそれを作っているのかを知るにつけ、それらの情報がそもそも発信されていないことに気付いたというのだ。
「インターネットの普及で、あらゆる情報が手に入るといわれていながら、伝統産業からはなかなか必要な情報が外に発信されていません。というのも、これまで伝統産業に関する情報は、中間流通業や百貨店などの小売業者が持ち、生産者に代わって消費者に提供・説明していたからです。その時代はそれでよかったのですが、現代の消費者はネット上で情報を自ら検索し、小売店に足を運ぶことなく、購入もネット上で行うようになっています」(中田氏、以下カッコ内は同)
言うまでもなく、新しい産業分野のプレーヤーたちは、ネットありきで自ら発信を始めている。しかし、伝統産業に属する人たちは概してそういう発想がない。
「いまだにウェブサイトすら持たない生産者が多くいます。商品を流通業者に送り出したら、後はお任せという感覚になってしまっているのです」と中田氏は指摘する。
それは情報だけでなく、品質管理も同様だ。生産者がどんなに丹精込めて作っても、流通段階の管理次第で品質が落ちてしまうことは往々にして起こる。いったん、生産者の手を離れると、商品がどう売られているかの情報は生産者には届かない。消費者にとっても同様で、最適な品質管理方法や、どこに行けば良い状態の物が購入できるか、という確かな情報がないのだ。