日本を飛び出して、世界でも楽しまれるようになった日本酒だが、品質管理が行き届いていないと、その隆盛も長くは続かない。早くから品質管理の重要性に気づき、徹底的にこだわったのが、黒龍酒造代表の水野直人氏だ。取引先をすべて見直し、再構築した。売り上げは大きく減ったが日本酒の品質を優先したのだ。その思いを聞いた。(ダイヤモンド編集部 深澤 献、編集者 上沼祐樹、フリーライター 藤田佳奈美)
美味しい日本酒を届けられているか
全ての得意先をまわって現状を確認
黒龍酒造の徹底した品質管理を知る前に、その歴史を紐解きたい。1804(文化元)年、福井県の永平寺町松岡に創業。この地はかつて、松岡藩が酒造りを奨励産業に指定するほど良水に恵まれていた。以来、200年以上、手造りの酒造りを継承している。
「良い酒を造れば、人は必ず支持してくれる」は、歴代の蔵元が残した言葉。この伝統から生産量を追うのではなく、常に品質を優先して酒造りをしているのが同蔵の特徴で、いち醸造期に仕込める量は限られている。また、その販売も黒龍酒造特約店でしか手に入らない。整った冷蔵設備と確かな知識と経験をもった販売のプロにしか託されていないのである。水、米、そして酒造りに込められた蔵元、蔵人の思いは、販売のプロを通して私たちの口に届く。便利な時代において逆行するかたちではあるが、これを譲らないのが、黒龍酒造の姿勢でもあるのだ。
「私は大手酒造メーカーに勤めておりました。その後、福井に戻って蔵を継ぐことになるのですが、弊社の全ての得意先を一度まわって現状を確認してみたのです。当時は販路にはあまりこだわりがなく、お取引いただける全てに販売をしておりました。
そのお得意先様を確認すると、生酒や吟醸酒でも常温で置かれておりました。日本酒は繊細なお酒です。適切な温度管理が必要ですし、紫外線を防ぐ事も大切です。その当時の酒屋さんにとっては、お酒は置けば売れる時代だったので、あまり品質管理を重視することはなかったのだと思います。日本酒は、そのように扱われるのが普通だったのです」(水野氏、以下カッコ内は同)
得意先をまわった水野氏は、その状況に驚いたという。酒蔵が一生懸命に美味しい酒を造っても、温度管理といった商品知識のない方が取り扱うことで、お客さんの口に入る頃には、出荷時の味と異なるものに。これでは造り手のこだわりが報われない。