長い歴史の中で、日本酒が消費者からの支持を失い続け、逆にワインは獲得し続けた。その理由は何か。Sake Experience Japanの代表を務める井谷健氏は、ワインの生産者とインポーターは、消費者の嗜好性に対し、味わいの面でもパッケージの点も真剣に向き合ってきたことを挙げる。日本酒の関係者にはそうした視点と努力が欠けていたのかもしれない。(ダイヤモンド編集部 深澤 献、編集者 上沼祐樹、フリーライター 藤田佳奈美)
日本酒の消費者の78%が
50代以上という事実
Sake Experience Japanの代表を務める井谷健氏は、アサヒビールで輸入ワインのマーケティングに長年携わり、2016年9月に独立、海外ワイナリーやディティラリー(蒸溜所)の日本向けのマーケティング活動支援のみならず、国内の日本酒蔵元の海外戦略の支援などを行っている。特に輸入ワインのマーケティングに限れば10年以上関わっており、その経験から井谷氏は「ワインが日本のアルコール市場に浸透していったことと、それに反して日本酒が選ばれなくなってきたことには、ある種の必然性がある」と解説する。
「2019年の成人1人当たりの日本酒の消費量は、4.3リットル、ワインは、3.4リットルで、まだ日本酒の方が30%程度多い(国税庁)。しかし、インテージのSCI(全国消費者パネル調査)の消費者年代別・カテゴリー別購入容量の構成比によると、興味深い事実が見えてきます。
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2021年9月現在で、日本の成人人口のうち50代以上の構成比は58%。それに対して、量販店(オンラインを含む)で日本酒を購入した人のうち、50代以上が占める購入量の割合は実に78%を占めています。アルコールカテゴリーの中で最もユーザーの高齢化が進んでいるんです。一方、輸入ワインでは50代以上の占める割合は68%。人口構成比から見ると決して若くはないけれど、それでも日本酒より10ポイント低い。データを見る限り、国内の日本酒消費を支えているのは明らかに50代以上のシニア層であることが分かります」(井谷氏、以下カッコ内は同)