ゆらぎとは?
次のような研究成果があります。
人間の個性や能力は遺伝子によって決定されるという学説が、支配的でした。
しかし、実際には遺伝子どおりにはいかず、脳にある種の「ゆらぎ」が起こることによって、個性や能力が生じていくことがわかってきました。
「ゆらぎ」とは物理学の用語です。
次のように理解してください。
「エネルギー・密度・電圧など、広がりや強度を持つ量の、空間的または時間的な平均値からの変動」。
あるいは「統計平均からのずれ。巨視的には一定であるが、微視的には平均値のまわりで絶えず変動している現象」。
脳に「ゆらぎ」が起きるとは、遺伝子以外の他の要素、いってみればノイズとでも呼ぶべき要素が、脳に変化を加えることを意味します。
すなわち、親から子へ、遺伝子はそのまま理屈どおりに遺伝していくわけではないのです。
一方宇宙については、宇宙物理学者の吉田直紀さんの著書『宇宙137億年解読』に次のようなことが書かれています。
吉田さんが宇宙の構成を表す数式を使用して、コンピュータシミュレーションをやってみたところ、どうしても今の宇宙の形にはならなかったそうです。
そこでアトランダムに、いくつかの「ゆらぎ」を入れてみると、今の宇宙に近い形が出てきたそうです。複雑で難解な理論ですが、ビッグバンによって誕生した宇宙は、現在もなお、変化を続けていることを指摘しています。
遺伝子は人間の個性や能力の継承をすべて保証するものではなく、宇宙はビッグバンのときから、同質のままで存在するのではない。
現代の自然科学は、その段階にまで到達しています。
宇宙についても人間の脳についても、解明できそうで解明できないことがたくさんあることがはっきりしてきたということは、まだ、宗教や哲学がこの先も生き残っていくことを示唆しているのではないでしょうか。
ウェイト的に見れば、人間の問いに答えてきたのは、昔は宗教がほとんどでした。
それから哲学が台頭してきて、やがて自然科学が生まれ、生物としての人間についてほとんどすべてを説明できるようになりました。
それでもまだ自然科学は万能ではなさそうです。
哲学や宗教は、今、そのような地平に到達しています。
以上のような自然科学がもたらした成果は、それはそれとして置いておき、過去から現在まで、人間はどのような哲学や宗教で世界を理解し、人間が生きる意味を考えてきたのか、この本では時代を追って順に見ていきたいと思います。