このような「一線を越えている」というサブカルにおける一つのかっこよさが、小山田氏のいじめ記事などの誕生に影響していた。

「いじめはもちろん許されないし、謝罪や償いは行ってしかるべきです。当時なら見過ごされていましたが、現代の倫理観と照らし合わせれば糾弾されて当然です。ただ、彼自身の残した文化的功績ごと全否定するようなバッシングはあまりにも酷だと思います。ある日突然、過去の“罪”を徹底的に糾弾された小山田、小林両氏の様子を見て、文化大革命で知識人が吊し上げられたビジュアルを連想してしまいました。無論、意味合いの点での近似性はまったくありませんが」

はんつ遠藤ブログに見る
サブカル的表現の罪

 40代以降の“サブカルおじさん”の中には、この「一線を越えている」という90年代のサブカルがかっこいいとした振る舞いから今でも抜け出せない人がいて、そうした振る舞いが炎上を引き起こしていると指摘する。

「肥大した自意識、あえて放つ余計な一言、露悪的表現。このような文章や語りが、90年代のサブカルシーンでは“クール”とされていた側面は否定できません。行儀のいいスマートな文章や物言いに対するカウンターでもあったからです。しかし、今でもこのような振る舞いを“カッコいい”ものとして更新せず、ネット上で書いたり、話したりすると高確率で炎上する。それが如実に表れたのが、フードジャーナリストはんつ遠藤氏のブログではないでしょうか」

 元アイドルのラーメン店主である梅澤愛優香氏がはんつ遠藤氏によるセクハラや誹謗(ひぼう)中傷などの被害を訴えていたが、これに対してはんつ遠藤氏は自身のブログで反論を表明。その文章では「(こら!)」というセルフつっこみの他、「(きっぱり)」「(大汗)」などの独特の表現が並び、おじさん構文としても話題になった。

「自らの気持ち悪さや良識的でない気分をあえて吐露するのは、かつてのサブカル界隈における“芸”みたいなもの、ある時期までは許容されていたノリでした。『映画秘宝』の元編集長による恫喝的なダイレクトメールも、当時なら『アングラ映画雑誌のヤンチャ編集長がやっちゃったね』で見過ごされていたのでしょうが、今はそういう時代ではない。コミュニティーや多様性が広がった現代において、このような20年以上前のサブカル的振る舞いが許容される場は限りなく狭くなっています」

「傷つけないお笑い」などと言われるように、現代では露悪的で攻撃的な表現は避けられる傾向がある。現代において重視される価値観は当時のサブカル的ヤンチャ感のそれとはほぼ対極にあると言えよう。