1日10分間の運動で
脳機能は向上する

 ここで注目したいのが脳と臓器の関係だ。

 高齢化社会を迎え、脳の健康が注目されている。定年が70歳になろうとする現在、脳の老化を防ぐことは社会の要請だ。しかし、脳機能は加齢により下がっていくため、老化に伴って記憶力や集中力の低下や判断の遅延などが起きる。

 定年の延長は労働力不足を補うためだが、ホワイトカラーが仕事の主体であるため、脳の衰えはそのまま労働の質の低下となる。

 では脳を鍛えるにはどうすればいいのか?

 クイズやゲームのような脳トレや塗り絵が脳の老化に歯止めをかけると言われたこともあるが、ビジネスで使えるレベルの脳機能の維持には役に立たない。実際、クイズや塗り絵で定年延長に対抗できると考える人はほとんどいないだろう。

 ではどうすれば、ビジネスで使えるレベルにまで脳を鍛えられるか。

 答えは運動することだ。脳を鍛えるためには体を鍛えればいい。これは、まさに臓器円環の仕組みを脳に利用することである。

 筑波大学体育専門学群の征矢英昭教授らはカリフォルニア大学と共同で運動が脳の機能向上に与える運動の影響を実験した。

 大学生を対象に、自転車を軽中強度で10分間こいでもらい、192枚の物体の写真を2秒間ずつ見せ、覚えてもらった。次に同一、類似、無関連いずれかの写真を計256枚見せ、最初に見せた192枚の写真と同じか似ているか無関係を答えてもらった。

 その結果、類似度が低い(=すぐに見分けられる)写真の正答率は、運動した人もしなかった人も変わらなかったが、類似度が高い(=見分けにくい)写真では、運動した人の正答率が明らかに高くなったのだ。

 運動によって判断力と記憶力が向上したと考えられる。征矢英昭教授は運動によって前頭前野(思考を生み出す部位)が活性化することも突き止めており、脳は体を動かすことで能力がアップすることが判明したのだ。

 繰り返しになるが、脳を鍛えるには体を鍛えればいいのである。