使う「時期」が自由であることも、受け取った個人にとっては重要な長所だ。しかし、この点では「せっかくお金を配っても、貯金されてしまっては、景気浮揚につながらない」という真逆の思案があったのかもしれない。

給付をクーポンにして
吐き出すように使えとはお節介

 昨年の「1人10万円給付」が、個人消費の拡大につながらなかったという事例を気にしたのかもしれないが、一時だけの給付金なのだから、「いざという時のために取っておこう」と考える家計管理には十分合理性がある。給付をクーポンにして、特定の地域・使途・使用期限を設けて、吐き出すように使えというのは、全く余計なお節介だ。

 昨年の給付金が貯蓄に回ったのは、元々勤労者の所得が伸びない中、新型コロナウイルスへの不安や、前年に騒がれた「老後2000万円問題」などもあって、家計は「貯蓄を買った」のだと考えるべきだろう。国内総生産(GDP)への影響だけで政策を評価しようとするようなインチキ・エコノミストのアドバイスに耳を貸したのが失敗ではなかったか。

 政府は、クーポンの制度設計や作成、配布などを自治体に丸投げするつもりらしいが、自治体側では手間も時間も掛かるし、巨額の事務経費が国会で指摘されて呆れられているようにコスト上の無駄も大きい。

 岸田首相には、クーポンとの比較で「現金を配る方が、こんなにいいのか!」と早く気付いてもらいたい。

 なお、現金の長所については、国民の側でも理解しておきたい。

 例えば、お金の使い道と使うタイミングは後から考えたらいいのだから、お金の使用目的によって運用の方法や運用商品を変える必要はない。資金の多寡や年齢などにかかわらず、誰でも、最も効率的な方法で運用したらいいのだ。世の中の大半の運用商品や運用のアドバイザーは無用なのだ。