2015年は日本の「動画配信元年」だった

 ネットフリックス日本上陸前の話から始めよう。当時、海外でネットフリックスへの注目が高まっていることは日本のメディアにも伝わっていた。いよいよ日本上陸の話が噂されると、日本のメディアはネットフリックスを「黒船」となぞらえて、「黒船ネットフリックスがいよいよ今秋(2015年秋)に参入」とこぞって報じた。これは保守派が多い日本の映像業界にとって脅威的な存在であることが意図的に伝えられたものであった。

 それは、新しもの好きの日本人に向けて興味を持たせる絶妙のタイミングでもあった。ちょうどその頃、「サブスク」と言われるサブスクリプション(定額制)の音楽、映像配信サービスへの関心が高まり始めていた。ネットフリックスが上陸した同年に、ネットフリックス最大のライバルであるアマゾン・プライム・ビデオが日本でサービスを始め、2015年は「動画配信元年」とされている。その前年の2014年には日本テレビがHuluジャパンを買収し、Huluは一足先に市場を確立しつつあった。

 ネットフリックス上陸目前、Huluは会員数が100万人を超えたことをアピールし、牽制を効かせていた。日本テレビの大久保好男社長(当時)が、「ネットフリックスは競争相手だが、お互い切磋琢磨して頑張っていきたい。日テレもコンテンツ制作能力を発揮し、配信市場全体の活性化を期待している」と発言していたことは印象的だった。斜陽になりつつあるテレビ産業が突破口を動画配信に求めているという姿勢を表していた。日本の映像業界にも、ネットフリックスの日本上陸を新たな商機として捉える少数派はいた。