古くから日本人は、桜が咲いた、美しい月が出たというと、いそいそと集まり、その情景を歌にしました。一瞬の景色を言葉にすることで、みんなでその美しさを分かち合ってきたのです。

 そしてこの伝統は、手紙に受け継がれました。文頭に「時候の挨拶」として「しっとりとした空気に緑の香りが漂う初夏の候」とか「冬のひだまりがことのほか暖かく感じられる寒冷の候」などと書くのは、季節への感覚を通して、古の人々の気持ちが引き継がれているのではないでしょうか。

「雑談」においても、これを使わない手はありません。歌や時候の挨拶のように難しく考える必要はありません。「駅からこの会場に来るまで、暑かったですね!」「一時は人が少なかったけど、満員電車、完全に復活しましたね。ここに来る電車も人でギュウギュウでした」など、「あ、私も同じ経験をした!」「私も同じように感じている!」と思ってもらえる感覚を、そのまま言葉にすればいいのです。

 雑談は内容以上に「心のスキンシップ」が大切です。五感で互いの気持ちをひとつにしましょう。

リモートの対話では
五感の共有をより強めに

 リモートの対話では、特に五感の共有が必要です。参加者全員が同じ環境、空気感の中にいないリモートは、最初に五感を共有しておかないと、要件だけのやりとりで終わってしまいます。これで人間関係を深めたり、信頼を厚くしたりするのは難しい。

 私は、全国の小学生から霞が関の行政パーソンまで、さまざまな世代や、業種の方とリモート講義や会議をやっています。

 どの世代、業種の方とも、簡単に打ち解けられる最初の言葉は、「どこから参加していますか? そちらは暑いですか?(天気の話)」です。