アメリカと日本がEV化に乗り遅れても
守りたい「国益」とは?

 アメリカは、産油国であると同時に世界最大の石油消費国です。ブッシュ大統領が石油業界出身だったことや、ロックフェラー財閥が石油を支配して発展したことからわかるように、ワシントンの政治家の間でも、石油利権を温存したい勢力が力を持っています。アメリカでは政権交代が4年ないしは8年おきに起きるのですが、ブッシュ、トランプという共和党政権が誕生すると、地球温暖化に対して後ろ向きな対応が行われます。

 日本はエネルギー資源国ではありませんが技術立国の国家であり、自動車産業が国を支えていることから、やはり国益としてガソリン車の延命を狙っています。

 今回の記事の本筋とは外れますが、石炭火力発電の技術についても世界で先進的な省エネ技術を有していて、その技術の売り込みを国を挙げて行っているのですが、これが世界の脱炭素の潮流の中で日本が批判される一因ともなっています。

 国益というものは国にとって重要なことですから、日本とアメリカがEV化に後ろ向きなのはその文脈で理解すべき事項です。しかし、最終的には世界の潮流には抗しきれない限界があることも理解すべきです。

 2050年のカーボンニュートラルに向けた中間点として、たとえばイギリスは2035年までにイギリスの電力すべてをクリーンエネルギーで賄おうと考えています。EU各国でも2019年段階で20~40%程度である自然エネルギー電力の比率を2030年に40%~74%まで高める目標を掲げています。

 日本はこれまで水力中心に全体の18%だった自然エネルギーを最大24%まで増やす目標を掲げてきたのですが、これが欧州から見れば不十分なものにしか見えない。そのような対外的なプレッシャーの中で30年度の新目標を検討しているのですが、現実的なクリーンエネルギーの積み上げと原発の再稼働を前提にしてもなお火力に一番頼らざるをえないプランが検討されています。

 国益面での逆風としては、アメリカが民主党政権になったこともこれからは大きな影響が出てきます。バイデン大統領は就任直後にそれまでのトランプ政権が離脱していたパリ協定の枠組みへの復帰を宣言し、現在では世界の環境サミットをリードする立場に立っています。

 アメリカ政府は、インフラ投資法に基づいて国内のEVインフラ投資に約8500億円を投資することを表明しています。一方で岸田政権は補正予算で我が国の充電インフラ整備に65億円を確保しましたが、これは5万円給付金のクーポン配布予算967億円と比較してわかるとおり、微々たる金額です。

 これまでは同じ国益からEV化への後ろ向きで協調してきた日本とアメリカですが、これから4年でアメリカはEV不毛国家からEV国家へとかじを切ります。場合によっては置いていかれるのは先進国の中で日本だけという、日本自動車界のガラパゴス化が危惧される状況に直面していたのです。

 これが今週月曜日までの温室効果ガスに関する世界情勢で、今週火曜日にそれを脱すべくトヨタが新EV戦略を発表したというのが、グローバルに見た冒頭の「トヨタの前向き宣言」だったのです。