コロナ、政府に翻弄される産業界
有名企業勤務の30代もリストラ

 かつての中国では、急速な経済発展の下で、多くの若者が起業し、ハングリー精神に満ちていた。事業を起こしたり、デジタルなどの新しい産業の民営企業に身を投じたり、どんどん新しいことに挑戦した。

 しかし、今や状況は一変した。新型コロナウイルスの感染拡大により経済が減速していることはいうまでもなく、政府が繰り出すさまざまな規制も雇用市場に大きな影響を与えた。

 例えば、昨年始まった、校外学習塾と宿題を軽減する「双減政策」は、大手学習塾運営企業に致命的な打撃を与えた。日本でも報道されているように、学習塾最大手の「新東方(New Oriental Education)」は、全国各地の1500カ所に上る拠点を閉鎖。学習塾産業全体からは約1000万人の失業者が出た。

 また、不動産産業やインターネット関連の企業にも厳しい制裁が加えられ、多くの人が職を失っている。

 筆者も、中国で10本の指に入る大手デベロッパーに勤務する30代後半の友人から突如、「高齢者住宅関連の企業を紹介してほしい」と転職の相談を受けた。彼は、有名大学の出身で、これまで住宅販売部門の責任者を務めており、業績も良く、バリバリに働いていた。

 給料も高く、みんなにうらやましがられていたのに、「なぜ?」と聞いたら、会社の業績が急落し人員削減の一人となったという。「住宅ローンの支払いがあるし、子どもの教育費もかかるから、とにかくどこかで働かないといけない」と、切羽詰まった様子だった。「僕のような人がクビにされるだけでなく、百度(バイドゥ)、字節跳動(バイトダンス)、アリババなどのテクノロジー、エンターテインメント業界の大手企業が、業績とは関係なしに大幅なリストラを行っている。これから失業者は増えるだろう」と嘆いた。

 たとえ解雇されなかったとしても、働く人は大きな悩みを抱えている。それは、長時間残業など、過酷な労働環境が強いられることだ。近年、中国では過酷な労働状況を示す「996」(朝9時から夜9時まで週6日間勤務)などの言葉が流行語となっている。

 昨年11月、日本でも知名度が高い、二次電池や電気自動車などを展開する自動車メーカー大手BYDの西安支社に勤める男性社員が、過労死したと報じられた。昨年10月1カ月間の休日はわずか2日で、残りの日は全て12時間以上の勤務だったという。西安の初雪が降る夜に、自宅で亡くなった。36歳だった。

 BYDは、自宅で亡くなったので、勤務とは因果関係がないという声明を出し、家族には慰労金20万元(約360万円)を支払ったという。近年、中国ではこうした大手企業の社員の過労死事例が相次いで発生している。

 また、世界最大級の住宅空調メーカー、グリー・エレクトリックは、会社設立30周年を機に、これまでの隔週週休2日の体制を完全に週休2日にすると発表した。これは、「中国を代表する企業なのに、これまで週休2日じゃなかったのか」と中国で大きな話題となった。

 解雇されるリスクが小さく、休みがきちんと取れて長時間労働をしなくても良い仕事は、簡単に手に入るものではなくなっているのだ。