マクドナルドの対応に隠れた
超合理的な「値上げ」戦略とは?

 今回マクドナルドではバリューセットのポテトがSサイズに変更になる分、価格を50円値引く対応をします。一見、これまでと同じルールに沿った対応に見えますが、ポテト好きの顧客は実は割高なポテトを買っていることになります。

 実際にビッグマックセットは従来はポテトMサイズで690円、Lサイズで740円でした。今回のルールでポテトがSサイズでは物足りないという人が追加でもうひとつSサイズのポテトを購入すると、サイズとしてはMとLの中間になりますが、支払い額は790円とこれまでのLサイズセットよりも高くなります。

 実は、ここが私は一番重要な点だと思うのですが、日本人は品不足が起きると売り切れを受け入れるのが常識だと考えますが、アメリカ人のビジネス感覚では品不足が起きて機会損失が起きそうになったら、すぐに値上げをするものなのです。

 値上げといっても昨年、マスクが不足して500円で買えたマスクの価格が転売で5000円になったような値上げは感心できません。でもバーゲンを止めて10%オフで売ることや、大入りサイズを販売中止にして実質少しだけ割高になる状況は、合理的に人間の経済行動を変えることができます。

 ポテトが好きな人は品薄の状況でも追加でポテトを買うことはできます。しかしそのためにはこれまでよりも少しだけ高いお金を支払うことになる。だから多くの顧客がポテトの購入量を減らしてくれることが期待できるというのが、マクドナルドが導入する仕組みなのです。

 同様に、日本では自動車が品薄になると価格はそのままにして納期が遅れます。

 今、コロナ禍で私もアメリカでの実地取材をしきれていない側面があるので、実際現地がそうかどうかは自信がありませんが、今まではアメリカのディーラーの場合、品薄になると小売価格が自然に上がるものです。不人気の車はディスカウントで売られる一方で、人気の日本車はプレミアムといってメーカー希望小売価格よりも高い価格で、店頭で取引される。アメリカ人は、それが当たり前だと考える商習慣を持っています。

 一方で日本ではデフレが長く続いた結果、大手小売りチェーンの価格支配力が高まったという側面が強いのでしょうが、なかなか値上げに踏み切らないという日本独特の経済状況が生まれています。

 サプライチェーンの混乱は2022年も引き続き起きそうです。さまざまな分野で品物がなくなって、消費者が不満を抱える局面も起きるでしょう。その対策の一つとして「安くは売らない」「合理的な範囲内で値上げをして需要を抑える」という売り方があることを、ビジネスの選択肢のひとつとして再認識してはどうでしょうか。

 マクドナルドのポテト販売休止のニュースは、本質を探っていくとこのような結構深い発見がある、というお話でした。