具体的な購入年齢の変化はロードスター全体での購入者平均年齢で、2020年実績の51歳から46歳と5歳若返った。

 年代別で見ると、20代が9%から19%、30代が6%から11%へとそれぞれほぼ倍増した。

 それに伴い、40代では27%から23%、50代では35%から30%、そして60代では23%から18%へとそれぞれ減少している。

 また、新導入の3モデル別で見ると、20代と30代の比率は「990S」で15%と13%、「NAVY TOP」で19%と16%、そして「Terracotta」で16%と8%となった。

ロードスター30周年ミーティング2019年10月13日にマツダ三次自動車試験場(広島県三次市)で開催された「ロードスター30周年ミーティング」。全国各地から2000台以上が集結した Photo by Kenji Momota

 ユーザーの若返りの理由について、国内営業部では「これから詳細を検証する」としているが、時代背景としては(1)コロナ禍による移動手段に対する意識の変化、(2)ライフスタイルに対する意識の変化、(3)趣味へのお金の使い方の変化――があるのではないかと推測している。

 別のマツダ本社関係者は「近年、ロードスターに限らず、マツダ車のオーナー年齢層が今回のように若返るというケースは極めてまれだ」と驚いた様子だった。

 若返りのみならず、直近ではロードスターの国内販売台数も安定して増加傾向にある。

 ロードスターの国内販売台数の推移を20年から21年にかけて見てみると、コロナ禍の初期である20年半ば頃は四半期で300台ペースだったが、第3四半期で400台を超え、第4四半期では600台近くまで上昇した。21年に入ってからも販売は安定して500台を超えるペースが続き、今回の商品改良による受注を含む第4四半期は、10~11月の2カ月で600台を超えている。

ロードスターの国内販売好調は
「ラストチャンスかもしれない」という焦りか?

“若者のクルマ離れ”と言われて久しい中、街中で見かけるスポーツカーの多くは中高年の男性がハンドルを握っている場合が多いという印象を持つ人も少なくないはずだ。

 そうした中、なぜロードスターの国内販売台数が安定して増加し、そしてユーザー層に若返り傾向が見られるのか?

 その理由として、マツダが指摘するようなコロナ禍での生活の変化という点については、これまでグローバルで初代から現行4代目までのロードスターの開発や販売の動向を現地取材してきた筆者としても、基本的に同感だ。

 さらに付け加えるならば、「近未来に訪れる電動化に対する不安」もあるのではないだろうか。

 コロナ禍になる前から、自動車産業界はCASE(コネクテッド、自動運転、シェアリングなどの新サービス領域、電動化)による「100年に一度の大変革期」というステージに入り、グローバルで見てロードスターのようなライトウエートスポーツカーが新たに商品企画される機会は一気に減少した。

 日本車ではトヨタ自動車の「GR86」・SUBARU「BRZ」があるが、オープンカーの設定がなく、また最新型ではエンジン排気量が2.0リッターから2.4リッターへと拡大するなど、ロードスターの対抗馬という位置付けとは言い切れないモデルとなっている。

 また、「GR86」と「BRZ」それぞれに開発者は「電動化前の最後の世代のスポーツカー開発を自分なりにやり切ったという達成感がある」とした上で、「電動化した場合のスポーツカー像について、まだ方向性が描ける状態ではない」ともいう。

 こうした状況は、マツダも基本的に同じだと思う。

 日本政府の政策として、2050年カーボンニュートラル達成に伴い「35年までに軽自動車を含む新車100%電動化」を打ち出している。ここでの電動化とは、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、EV(電気自動車)、燃料電池車を含む。

 一方で、現行モデル(4代目ND)の主力市場で、販売台数が日本の2倍以上ある欧州では電動化の条件はさらに厳しい。

欧米ではさらに厳しい状況に
ロードスター完全EV化も視野

 欧州委員会は21年7月、欧州グリーンディール政策において「35年に欧州域内で(事実上)新車100%EV化(または燃料電池車化)」という具体案を示している。

 同じく、NDの販売台数が日本の2倍以上ある北米でも、状況は厳しさを増している。21年8月に、バイデン米大統領が「30年までに乗用車とライトトラック(SUVとピックアップトラック)の新車50%をプラグインハイブリッド車、EV、または燃料電池車」とする大統領令を発令している。

 こうした欧米でのEVシフトに関する大きな動きが表面化する少し前、マツダは21年6月17日に「サスティナブル“Zoom-Zoom”宣言2030に基づき、30年に向けた新たな技術・商品方針」を発表している。その中に、ラージ商品群をFR(後輪駆動)化してプラグインハイブリッド車を導入することや、EV専用プラットフォームの自社開発を盛り込み、電動化の道筋を示していた。

 その際、オンラインでの報道陣との質疑応答で、筆者は専務執行役員・研究開発・コスト革新統括の廣瀬一郎氏に対して「電動化時代となっても、ロードスターは永遠に不滅か?」と聞いた。

 これに対して廣瀬氏は、「ロードスターは、30年(以降の商品計画として)のスコープに入っている」と明言している。

 この時点では、エンジンを補完する形で小型モーターを使ったマイルドハイブリッドの可能性も考えられたが、その後に欧米でEVシフトの流れが一気に加速していることを鑑みると、仮にロードスターという商品を30年代に継続する場合、中長期としては完全EV化も視野に入れなければならないはずだ。

 いずれにしても、1989年発売の初代(NA)、98年発売の2代目(NB)、2005年発売の3代目(NC)、そして15年発売の4代目(ND)で培われた、エンジンの音と振動をカラダ全体で感じるライトウエートスポーツカーという世界は、トヨタやSUBARUの開発関係者らも指摘するように、20年代前半から中盤あたりが最終章となる可能性が極めて高い。

30周年記念を祝うファンのサインで埋め尽くされたND筆者も名を連ねた、30周年記念を祝うファンのサインで埋め尽くされたND Photo by K.M.

 ライトウエートスポーツカーとして、唯一無二の存在であるマツダ「ロードスター」。次世代への進化に向けた転換期を迎えたいま、「ピュアガソリン車としての、あの味わいを、最後に思い切り楽しんでおこう」という人が広い世代で増えていくのは、しごく当然のことなのかもしれない。