一方米国では、民間でのAI技術の開発に加えて、軍事用途に多くの最新プロセスが必要とされるため、主に5nmプロセスの半導体を優先的に国内生産している。自動車や電化製品など民需用の半導体を必要としている日本では、22~28nmプロセスの半導体の生産を優先して調達しようとしているのに過ぎない。

 そもそも半導体は、メモリと呼ばれる記憶素子とロジックと呼ばれる論理素子に大別できる。メモリはDRAMやフラッシュメモリーのようにデータを記憶するための半導体であり、かつて日本の半導体産業が得意であったのも特にこの領域である。

 一方、ロジックICはシステムLSIとも呼ばれ、CPUのように計算に用いられる半導体である。民生用であればPCに用いられるCPUやスマホのチップセット、家電製品などの制御などに使われる半導体として使用される。日本もかつてテレビ、ビデオ、FAXなど当時のハイテク製品が輸出産業の花形であったときには、自社のハイテク製品向けにこうしたシステムLSIの生産を行い、世界規模の半導体生産拠点となっていた。こうした自社向けに開発した半導体を自社で消費する形態をIDM(垂直統合型製造企業)という。

 しかし、今日の主流は台湾のTSMCのような半導体製造に特化して、様々な企業の半導体をまとめて作る、ファブレス&ファウンドリという作り方が一般的になり、徐々に日本の半導体の競争力は下がり、今日の半導体の国内自給率は27%ほどに過ぎない。

今不足して求められているのは
収益率が悪い古い半導体

 なぜ日本の半導体産業が衰退したのかを論じる前に、なぜ22~28nmプロセスの不足が問題なのかといえば、それは古い半導体製品であるため、利益率が低いという問題があるからだ。

 現在の半導体不足によって、PCやタブレット、スマホなどの製品にも一部供給不足が起きているが、これらは最新スペックのCPUやチップセットの不足というより、スマホなどの製品に使われる周辺の部品、たとえば液晶ディスプレイを制御する半導体や、周辺機器との通信を行う半導体など、それほど高性能ではない古い世代のプロセスで作られる半導体部品の不足によるものだ。新しいものだけあっても、製品を作ることができるわけではないということである。

 しかし、いくら必要な部品だとしても古い技術の半導体は価格が安く収益性が悪い。しかも、たとえば22~28nmプロセスの工場の投資は主に10年前に行われているので、すでに減価償却が終わっており、仮に低価格で製品を販売しても作れば作るほど利益が出る構造になっている。よって、このプロセスの半導体製品は価格が低く、新規参入のメリットが少ないので、半導体不足にかかわらず増産しようとする企業がなかなか現れなかったのである。