ダメ出しと泣き顔を対比させるお約束演出

 演出について、他にも気になる点がある。

 前述の通り、シェフは商品についてそれなりに具体的なアドバイスを行っていた。ただ視聴者には、その前にシェフが口にした「食べてみたいという気にならないビジュアルが、僕の中でどうしても許せない」というセリフの方がインパクトに残りやすかったのではないだろうか。番組上では、このセリフの後に「ドーン」という効果音が付けられ、開発担当者女性の泣き顔が映る。この場面が最も印象に残る仕掛けが作られている。

 厳しい評価をする男性専門家と、ジャッジを受ける企業側担当者の女性の泣き顔という構図。これは番組制作側にとって「おいしい絵」なのだろう。

 1980〜90年代頃は、人気ドラマで悪役を演じた俳優が現実に石を投げられたりするといった被害があったという。現代ではさすがに聞かないが、それほど人は映像に感情を左右されやすい。

 現代の悲劇は、昔ならほとんどの場合は友人や家族との会話内で終わっていたテレビの感想が、インターネットを通して一瞬にして拡散し、誰の目にも触れるものとなっていくことだ。一人が何げなく書き込んだ感想が同調や共感を呼び、次第に「攻撃してもよい対象」を作り出し、実際に攻撃してしまう。

 テレビで喚起された不快感が、ネット上で同意見を見ることによって増幅して拡散され、遂には番組を見ていない人まで「それは不快だ」と言い始める。視聴者はもっと冷静に賢くならなければならないし、誹謗中傷の加害側になる可能性は誰にでもあるとわきまえなければならない。