ヘルスデータ活用先進国に比べ、
日本が後れを取っている二つの理由

 一方、日本は「国民性」と「手厚い公的保険制度」から、ヘルスデータの利活用において、他の先進国に比べて後れを取っています。

 例えば、EUではGDPR(EU一般データ保護規則)で個人データの保護やその取り扱いについて定められていますし、米国は個人の責任で情報を流通させるのが当たり前の文化です。しかし、日本においては、「個人情報を知られるのが怖い」という感覚を持つ人が多いのではないでしょうか。

 また、日本は、欧米に比べ医療サービス体制が整っており、かかりたいときにすぐ診てもらえ、医療保険で安価に受診・治療することができるようになっています。よって、自分のヘルスデータを利用して健康管理に役立てるメリットを感じづらい環境にあると言えます。

 そういった状況下にありながらも、世の中のDX(デジタルトランスフォーメーション)の波を受け、ようやく医療分野にもDXの流れがやってきたというのが現状です。

日本政府も本気で取り組み始めた
個人のヘルスデータの一元化

 2021年9月1日に発足したデジタル庁。

 政策の一つである「国民目線のUI・UXの改善と国民向けサービスの実現」の中で、健康・医療・介護などの「準公共分野のデジタル化」を掲げており、昨今の取り組みをみていると、本気でこれらの分野におけるDXを進めようとしていることがうかがえます。

 具体的には、マイナンバーカードが保険証として利用できるようになり、マイナポータルで特定健診情報や薬剤情報・医療費が見られるようになりました。今後浸透していけば、初めての医療機関にかかる際に過去のヘルスデータを医師と共有することにより、より良い医療を受けられることが期待されます。

 健康・医療・介護分野の個人の健康に関わるデータは、自治体や国、医療機関、介護事業者、民間の健康関連事業者等、さまざまなステークホルダーがバラバラに管理しています。今回の国による、マイナポータルへのヘルスデータの集約は、健康に関わるデータを、個人が主体的に管理・利用することを可能にする第一歩と言えます。

 また、経済産業省(経産省)もヘルスデータに無関係ではありません。「健康経営」という言葉を聞いたことがある人もいるかと思いますが、日本においては労働人口の減少が予測されているため、従業員の健康を経営課題ととらえ、従業員の健康維持・増進を通し、会社の生産性向上を目指すことが求められています。これをリードしているのが経産省で、毎年、優れた健康経営を実践している企業を「健康経営優良法人」として表彰しています。

 健康経営に際し、企業は従業員の健康診断結果や食事や運動・睡眠といったパーソナルヘルスレコード(PHR)などのヘルスデータを集約・分析し、さまざまな健康施策を展開することで、従業員の健康維持・増進を図っています。そして、経産省は企業の健康経営による従業員のヘルスデータの改善結果を評価しているのです。

 このように、経産省も日本の置かれている状況から、企業の生産性を上げ、競争力を高めるために、従業員の健康、すなわちヘルスデータの改善に注目するようになっています。