介護業界を志望する若い中国人が
日本にやってくる可能性が高い裏事情

 私がよく知っている山東省の人材派遣会社は、コロナ禍の影響がまだ続く今でも、日本に渡って働く介護関係の人材を募集している。中国では、高齢者の身の回りの面倒を見る仕事が低く見られているため、若い女の子は目も向けないだろうと思い、募集対象を40歳以上の農村出身の中年女性に絞った。しかし、蓋を開けてみると、若い看護師のタマゴからの申し込みも相当あったという。

 びっくりしてその真意を調べたら、ある事情が見えてきた。

 急速に高齢化が進む中国では、これまでの成長路線の維持はもはや不可能と判断した不動産会社が、高級老人ホームなどの経営にかじを切った。そのため、各地に高級老人ホームが雨後の筍のように登場した。しかし、介護などの面でハイレベルのサービスを提供できる環境はまだ構築段階のケースが多い。その一因は、専門人材が非常に不足しているためだ。

 看護学校に通う若者たちは、そこに自分たちの敗者復活戦のチャンスを見いだしているのだ。中国ではまだ新規産業である介護分野の専門人材になれば、出世コースにあらためて乗ることができるし、高所得も夢ではないと思っている。だから、日本に赴く介護人材の募集に手を挙げたのだ。

 彼女たちは、日本で数年間、介護の現場で働いたら、その経歴とスキルが買われ、管理職として中国の老人ホームなどの福祉施設に迎えられる、とこれからの人生を組み立てているというわけだ。

 実際、私のところに日本で中国の介護人材を育成するプロジェクトの企画書を送ってきた中国の企業もある。そこには、日本で介護の経歴とスキルを一通り習得した中国人の介護分野の人材を月給2万元(約34万円)のスタートで雇用する、といった内容も書き込まれている。この額は、中国企業で働く一般大卒の給料をはるかに上回っている。間違いなく敗者復活の実現だ。

 これらの中国の介護人材は、おそらく初期段階では日本への定住を求めないだろう。しかし、日本での生活が長くなると、一部の人間がきっと移民として定住の道を選ぶかもしれない。

 年明け、東京から遠く離れた過疎化の地方も訪ね、コロナ禍の影響で一段と複雑になった外国人人材の就職現場を歩き回ってみた。町おこしの事業を始めようとする外国人経営者や地元の支援者などの声を聞くことができた。

 現場を見れば見るほど、日本は間違いなく移民社会になっていくだろうと思った。しかし、果たして理想的な移民社会が日本に構築できるのか。まだ読み切れないところが多く、予測困難だ。

 帰りの車の前方に、冬にもかかわらず虹が空に懸かっているのを見た。希望を持たせてくれた虹の橋に勇気を得た思いで東京への帰途に就いた。