イングランド代表のクリケット選手であるベン・ストークスイングランド代表のクリケット選手であるベン・ストークス MATT ROBERTS - CAGETTY IMAGES

 2021年7月には、イングランド代表のクリケット選手であるベン・ストークスがメンタルヘルスの維持を優先すべくインドでのテストシリーズを欠場し、「クリケットからの無期限の休養」を取ることが発表されました。このストークスの選択は、他のアスリートにも大きな影響を与えました。

 苦難の末、東京2020夏期オリンピックでの金メダルを獲得した英国代表の水泳選手アダム・ピーティーが、その後1カ月にわたりメンタルヘルスを理由に休養に入ったこととも重なります。

 また、ユーロ2020大会を目前に控えたアストン・ヴィラFC所属のサッカー選手タイロン・ミングスも2021年8月、「精神科医の力を借りることで外部からの重圧によって、自らのパフォーマンスが低下するのを防いだ」と打ち明けています。

アストン・ヴィラFC所属のサッカー選手タイロン・ミングスアストン・ヴィラFC所属のサッカー選手タイロン・ミングス  GETTY IMAGES

「90~95%に及ぶ国民が自分(のイングランド代表起用)に対して疑いの目を向けている中、それを無視して健全な思考を保つことは非常に困難だった」と、ミングスは「The Sun」紙の取材に応じて語っています。「精神科医の協力を得てあらゆる対処を行いました。なかなか大変でした。最初の試合の前夜には、うまく眠れないような状態でした」。

アスリートの休養を
“軟弱”と非難するメディア

 トップアスリートが所属するチームや代表を務める国の責任を果たすよりも、自らの健康を優先させるという行動に対して、皆さんのご想像どおり、それをすべて共感してくれる人ばかりでないことは想像できるかと思います。

 スコットランドの「ヘラルド」紙は、「スポーツの息の根を止める軟弱文化」と題した記事の中で、「オリンピックが“雪の結晶のように繊細な感性”に感染してしまった」と嘆きました。オンラインの情報誌『Spiked』もまた、「シモーネ・バイルズと、セルフケアという問題」と題した記事を掲載し、問題視しています。

 水泳選手ピーティーはそのような世間の反発に対し、「失望を禁じ得ない」と語ります。「自分の下した決断について寄せられるコメントを読めば、スポーツの世界におけるメンタルヘルスを取り巻く状況がいかに酷い偏見にまみれた状況であるかに気づかされます。もはや、普通の職業とは言えません。巨大なプレッシャーに常に晒(さら)されることになるのです。『一体、いつからか思い出せないほどの長きにわたって苛酷な状況に身を置き続けてきたことか?』と思い、一度この環境から離れる必要があると思いました。ただ、人々の理解を得るのは簡単ではありません。知りもしない私のことをあれこれ言いたがる人々が大勢現れました」と、ピーティーは述べています

(写真左から二番目)東京オリンピックでの金メダルを獲得した英国代表の水泳選手アダム・ピーティー(写真左から二番目)東京オリンピックでの金メダルを獲得した英国代表の水泳選手アダム・ピーティー  IAN MACNICOLGETTY IMAGES