ベーシックインカムなら
「大きな政府」的な非効率性と無縁

 例えばベーシックインカムでセーフティーネットを用意するとしよう。ベーシックインカム自体は税制と組み合わせて「再分配」を行うための仕組みにすぎない。従って、予算上は政府の支出額が膨らんでも、そのお金の使い道を考えるのは民間であり、個々の国民だ。「大きな政府」的な非効率性からは逃れている。

 なお、分配は「差額」で見なければならないので、ベーシックインカムに対応する財源を何にするかが問題だ。筆者は、所得税の累進制を高めることと共に、広範な資産への課税が適当だと考える。

 岸田首相がかつて口にしていた金融所得に対する課税強化ではなく、金融資産に対する課税がいい。前者では、例えばリスクを取った株式投資の収益に課税する一方、預金に対する課税は、特に現在の金利ではごく小さい。投資を罰するような課税の強化は不適切だ。

 順番として良心的なのは、まず強力なセーフティーネットを作ることだろう。そして、自由主義的な規制緩和と市場の活用こそが成長戦略になる。

 ちなみに、株式市場(特に株価決定に影響力が大きい外国人投資家)が求める「成長戦略」とは、政府が業界を規制してお金の使い道を考える経済産業省的な経済運営ではなく、自由主義的な規制緩和のことだ。

 政府の役割は、(主に情報の非対称性があるから)市場原理になじまない教育(現在、いかにも過小投資だ)、医療、防衛などに効果的な投資とマネジメントを行うことだ。

 十分なセーフティーネットを作ると、今の予算で言う社会保障支出は巨大化する。しかし、支出の内容や資源配分への影響を考えると、再分配のための移転的支出は、「大きな政府」を計算するときに政府が資源配分に関わる支出と共に分子に乗るべき数字ではない。

 あえてキャッチスレーズにするなら、「小さな政府で大きな福祉」が目指すべき「新しい資本主義」の姿だ。

 大きな話は別として、予算が出るたびに社会保障費の拡大を嘆くような御用学者とマスコミは、何かがずれていると思わざるを得ない。