2008年のジョージアへの軍事侵攻に続いて2014年には黒海北岸のクリミア共和国を武力で併合したプーチン大統領は、足並みのそろわない欧州と国内問題で手いっぱいの米国からの批判は口先だけで弱腰だと見抜いている。そして昨年からウクライナの国境付近に10万人もの大規模な兵力を集結させている。

プーチン大統領が目指す
旧ソ連邦の復活

 直近の狙いは、西側の北大西洋条約機構(NATO)に加盟したいというウクライナの望みを打ち砕くことにある。だが筋金入りの国家主義者の野望は実はもっと大きい。

 目指すは旧ソ連邦の復活である。つまり、1991年のソ連解体で次々と独立した14の旧ソ連構成国を再びロシアの強力な支配下に置くことだ。その中にはウクライナやカザフスタン、ベラルーシ、ジョージア、リトアニアなどが含まれている。

「私に20年間を与えてくれれば、ロシアは見違える姿に変わるだろう」

 10年以上前にプーチン大統領はスピーチやインタビューでそう思わせぶりに語っていた。

 危機感を抱いたバイデン米大統領は昨年末の米ロオンライン首脳会談で、ロシアがウクライナに侵攻すれば「同盟国と共に強力な措置で対応する」と警告を発した。これに対してプーチン大統領は「国境で軍事力を増強しているのはNATOの方だ」と平然と切り返したという。

 思い返せば、ソ連崩壊後にエリツィン初代ロシア連邦大統領が領有権を主張したのはジョージアとウクライナの一部とカザフスタン北部だった。これらの地域はロシア系住民が多数いるのでナショナリズムを刺激しやすい。ウクライナの次はカザフスタンというシナリオは、プーチン大統領の目には当然の領土奪還としか映っていないのである。

 しかも今回のカザフ騒乱によって、ロシアはさらなる権益拡大を目指すことはまず間違いないだろう。

 ロシア語が堪能でプーチン大統領とは政治的に愛憎併存の関係にあったアンゲラ・メルケル前独首相の言葉を借りれば、「ミスタープーチンは我々と別の世界に住んでいる」のだ。