米ロ対立による
核開発競争のリスク

 彼にはお気に入りのフレーズがある。それは「我々に必要なのは偉大な変革ではない。偉大なロシアだ」だ。1907年、ニコライ2世時代に首相を務めたピョートル・ストルイピンが議員たちを批判したときの演説を引用したものである。

 プーチン政権の執拗な拡大主義に危機感を募らせたブリンケン米国務長官は7日、報道陣に対していかにもインテリらしい辛辣(しんらつ)なコメントを口にしている。

「近年の歴史の教訓のひとつは、いちどロシアを家に入れると出ていってもらうのが難しくなることだ」

 2014年のロシアによるクリミア併合と現在進行中のウクライナへの露骨な軍事的圧力に対する明らかな批判だ。

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 ロシアの経済力はいまや韓国程度の規模しかない。人口も日本とさして変わらない。だが侮ってはいけないのは、依然として米国をしのぐ数の核兵器を保有する軍事大国で、世界3位の産出量を誇るエネルギー大国であることだ。そして従来の同盟国であるインドとの軍事・エネルギー関係を強化している。

 迎撃が難しいとされる核弾頭搭載可能な極超音速ミサイルを実戦配備するとさえ発表しており、米ロの核開発競争の激化につながりかねない。

 国際政治では、不確実性に備えることが戦略の最も重要な要素だといわれる。新たなパワーポリティックスの時代に突入した今、米中対立だけでなく冷徹な戦略家であるプーチン大統領が率いるロシアの動向を注視する必要がある。

(国際ジャーナリスト・外交政策センター理事 蟹瀬誠一)