地元に寄り添うキヤノン、18年前に香港市民の心をつかんだ広告

 キヤノンは消費者、進出先の住民に寄り添う形でブランドイメージを守る意識の高い企業だ。

 18年前の2004年2月、私が訪れた香港は、深刻な不景気に苦しんでいた。香港の友人たちと食事に行ったら、愚痴をたくさん聞かされた。そのしばらく前、私は「香港沈没」というテーマで香港経済を批判するリポートを書いたばかりだった。友人たちは「頼むから香港人を励ますようなものを書いてくれ」と注文した。

 そんな香港取材中のことだったが、中心街の中環(セントラル)にある議員事務所に行こうと拾ったタクシーの車体に、目を見張った。キヤノンの広告が貼ってあり、「Canon、香港加油(香港、頑張れ)」とあった。表現はいたってシンプルだが、ジンと来るものがあった。

 友人たちにやんわりと批判された直後のせいか、このキャッチコピーにこめられたメッセージ、つまり、香港経済の厳しい現状に対する理解や励ましの温かい目線と心遣いをいや応なしに感じさせられた。そして、香港と苦楽を共にしようというキヤノンの示した連帯意識に感動した。

 普段香港を厳しく見ている私も、この広告には心を打たれて、ほのぼのとした気持ちになった。

 香港には日本好きが多い。日本製品もことのほか愛用されている。その日本から励まされると香港市民もきっと感激するだろうと思い、当時、全国紙のコラムに、このキヤノンの広告を取り上げた。多くの中国人の友人からも「いいキャッチコピーだ」という感想が送られてきた。

 こう振り返ると、企業文化には、DNAのようなものがある。04年の香港の広告と今年の珠海撤退には、キヤノンのこのDNAが終始流れており、消費者や進出先の住民に寄り添う姿勢は一貫として保たれている。

 ただ、このような姿勢を保つ企業は厳密に言えば、キヤノンだけではない。