カリフォルニア州パロアルト。アップル創業の地であり、ヒューレット・パッカードなど数多くの有力ハイテク企業が本社を置くシリコンバレーの中心地に、米国のグリーン(環境)シフトを象徴するベンチャーがある。
企業の名はオースラ。リトアニアの「夜明けの女神」の名を冠した設立2年目のこの新興企業が手がけるのは、近年、電力業界からクリーンエネルギーとして注目を集めている太陽熱発電である。
太陽熱発電とはソーラーパネルによって太陽光を電気に変える太陽光発電とは違い、地表に敷き詰めたガラスなどの受光装置を通じて液体に集光し蒸発させタービンを回す技術だ。広い受光面積(すなわち土地)が必要となるが、既存技術の集合体であり運用コストは太陽光発電よりも安く、天然ガス火力と同程度といわれる。電力源は太陽なので、資源の枯渇の心配はなく、二酸化炭素など温室効果ガス排出削減にもつながる。
現在米国には複数の太陽熱発電ベンチャーがあるが、オースラの凄みはなんといってもその途方もない事業計画だ。同社の見立てでは、92マイル(148キロメートル)四方相当の土地に受光設備を配備すれば、全米の電力需要を賄える。すでに6月にはネバダ州ラスベガスに受光設備などの製造工場を稼働させ、さらにカリフォルニア州に発電プラントを建設し、2010年にも稼働させる計画だ。投資額は5億ドルを超す。
技術者集団の見果てぬ夢とも決めつけられない。増資と借り入れで資金調達の目途を立てたほか、カリフォルニア州の電力会社からは20年間の電力供給契約を勝ち取った。なにより全米に名を轟かせる経営のプロや政策アドバイザーたちが味方だ。
CEOには、米電力大手の経営トップを歴任してきたロバート・フィッシュマン氏が就任。取締役には、オラクルのレイ・レイン元社長、カリスマ投資家のヴィノッド・コースラ氏も加わった。さらに、アドバイザーには、ノーベル平和賞を受賞した“環境の伝道師”アル・ゴア元副大統領も名を連ねる。
むろんこの“ドリームチーム”の背後には、政財界に顔がきく黒子がいる。オースラの大株主であるシリコンバレーの有力ベンチャーキャピタル(VC)、クライナー・パーキンズ・コーフィールド&バイヤーズ(KPCB)のパートナー、ジョン・ドーア氏だ。オースラだけではない。じつは今、米国VCによる環境関連のメガディールの4件に1件はこの人物が主導しているといわれる。