政府は今年も「就地過年」を呼びかけてはいるものの、そのトーンはかなり落ちている。だが、帰省者を受け入れる側の一部地方ではまだまだ警戒感が強く、農村幹部が外部から帰郷する者を「悪意の帰郷」と呼んだというニュースや、大連のような大都市でも帰郷者に空港で無理難題をふっかけ、最終的に現住地に追い返す様子をつづった書き込みがSNSでシェアされている。筆者の知り合いも久しぶりの帰郷を予定していたが、故郷の河南省が感染拡大で厳戒態勢に入ったために春節直前に諦めたようだ。

 春節は、帰郷者も帰れない人もいや応なしに家族との関係を思うときでもある。今年の春節直前、そんなリアルな「家族」の形を巡る、さまざまなニュースが人々の注目を集めた。今回はその中でも大きな衝撃を与えた、あるケースをご紹介しよう。

17歳の劉少年が自殺

 1月24日、「劉学洲が自殺した」というニュースがSNSを駆け巡った。

 この名前には見覚えがあった。その1週間ほど前に、SNSで知り合いのジャーナリストたちが熱心に「劉学洲、SNSで生母にブロックされる」というタイトルの記事をシェアしており、目を通したばかりだったからだ。

 劉学洲さんは河北省石家荘で暮らす17歳の若者で、4歳のときに自宅だった花火工場の事故で両親を亡くした。その後は母方の祖母と親戚に育てられた。だが、実は亡くなった両親は「養父母」で、彼が「買われた」子どもであることは村中の人が知る事実だった(彼によると、村にはそうやって「買われてきた」子どもが何人もいたという)らしい。そのことで小学時代には何度も嫌がらせをうけ、いじめられたため、6回も転校した。最後に入った寄宿制の学校でもいじめられ、中学校に上がると彼の弱みにつけ込んだ男性教師に性的いたずらまでされたという。

 彼が現実に自分が生後4カ月で売られてきた子どもだったことを認識したのは14歳になったときだった。そして、昨年12月初めに深センの街角でさらわれた息子を14年間捜し続けた孫海洋さんが息子と再会したというニュースに触発されて、自分の実の両親を捜したいとネットに動画を投稿した。孫さんがバイクに幟(のぼり)を立てて全国各地を渡り歩いて息子を捜し求めた話は有名で、数年前には映画にもなっていた。そのリアルなハッピーエンディングに劉さんも触発されたのだ。