パーパスがどのように
企業の業績アップにつながるのか

ハーバード大教授が語る、パーパス経営を「上っ面で終わらせない」方法佐藤智恵氏

佐藤 深層的なパーパスは企業の業績にどのような影響を与えるのでしょうか。

グラティ さまざまな調査結果からパーパス経営が長期的な業績アップに結びつくことが明らかになっていますが、私がいま研究しているのは、パーパスがどのように業績アップにつながるのか、という点です。

 パーパスの効用は主に四つあると考えています。一つ目は企業戦略の方向性が明確になること。二つ目は、社員がやる気になること。三つ目がブランド価値が高まること。そして四つ目がステークホルダーやコミュニティーとの関係性が深まることです。

佐藤 「日本企業は社会貢献には熱心だが、もうけに対する意識が低い」とよく海外の投資家から批判されます。日本企業の経営者はパーパスを重視したいのはやまやまだが、四半期ごとに結果も出さなくてはならないというジレンマを抱えているのです。社会貢献と経済利益を両立させるにはどうしたらよいのですか。

グラティ 忘れてはならないのは、民間企業の存在目的は、慈善活動をすることではないことです。「パーパス経営」の話をすると、社会貢献を慈善活動と勘違いする人がいますが、利益を上げることは民間企業の大事な使命です。

 ビジネスの中にはすぐに結果が出るものもあれば、利益を上げるまで時間がかかるものもあります。例えば石油会社がすぐに再生可能エネルギー会社に転換できるわけではありません。企業の経営者は、リターンの観点から短期型ビジネスと長期型ビジネスをうまく組み合わせることが必要なのです。

 注目すべきは、昨今は長期的な視点から投資をしてくれる投資家が増えていることです。彼らが最も重視しているのは、企業のパーパスであり、経営者がパーパスを核とした経営をしているかどうかです。

>>次回は2月9日(水)に配信予定です。

ランジェイ・グラティ Ranjay Gulati
ハーバードビジネススクール教授。専門は経営管理(リーダーシップ、戦略、組織行動)。同校のMBAプログラムにて事業再生や起業家精神の授業を教える。現在の研究テーマは、激動する市場環境下で企業を高成長に導くための戦略やリーダーシップ。GE、IBM、マイクロソフト、日立製作所、ホンダなど、世界中の大企業で講演やコンサルティングを行う。米CNBCなどテレビ出演多数。近著に“Deep Purpose: The Heart and Soul of High-Performance Companies”

佐藤智恵(さとう・ちえ)
1970年兵庫県生まれ。1992年東京大学教養学部卒業後、NHK入局。ディレクターとして報道番組、音楽番組を制作。 2001年米コロンビア大学経営大学院修了(MBA)。ボストンコンサルティンググループ、外資系テレビ局などを経て、2012年、作家/コンサルタントとして独立。主な著書に『ハーバードでいちばん人気の国・日本』(PHP新書)、『スタンフォードでいちばん人気の授業』(幻冬舎)、『ハーバード日本史教室』(中公新書ラクレ)、『ハーバードはなぜ日本の「基本」を大事にするのか』(日経プレミアシリーズ)、最新刊は『コロナ後―ハーバード知日派10人が語る未来―』(新潮社)。日本ユニシス株式会社社外取締役。講演依頼等お問い合わせはこちら。