あくまで事件、事故対応が主たる目的なので、例えば「事故が起きたときに、どこで異物が混入したのかを追求し把握することで、生産者や中間業者の責任の所在を明確すること」が目的となっている。どちらかというと、消費者や販売店等の川下へのサービスではなく、川上の責任追及のためのシステムである。

 一方、松阪牛と越前がにのトレーサビリティは、販売店や飲食店、消費者に対し「正真正銘の松阪牛です」「正真正銘の越前がにです」と訴えることが目的となっている。偽装防止をすることで「販売店や飲食店、消費者に安心を与え、ブランドを守るための仕組み」になっている。

 繰り返しになるが、国のトレーサビリティは「事故対応時に、川下から川上にさかのぼるシステム」だが、松阪牛と越前がには「偽装防止のために、川上から川下に伝達していくシステム」なのだ。

 国産アサリも、偽装防止のためには、松阪牛や越前がにのようなトレーサビリティをするのが効果的だ。しかしアサリは、牛やカニのような大きな個体ではないので、あくまで出荷単位(量と金額)で川上から川下に伝達するしかない。その際、生産者が最終業者である販売店(できれば飲食店も)を把握できるシステムを作るようにすることが必須条件だ。

 漁獲量が多い愛知県や北海道は、かなり手間暇および費用が発生するが、漁獲量の少ない熊本県なら取り組みやすいのではないだろうか。漁協が、販売店まで指定する方法もある。松阪牛のように会員制にするのも一つの方法だろう。「熊本県産アサリの販売店は、全国でどことどこです」と決めて消費者にアピールすれば偽装は起きない。

 熊本県が音頭を取って率先して取り組めば、漁協も販売店も消費者も喜ぶだろう。国民の信頼を回復するにはこうした取り組みが最適ではないだろうか。