天然ガスのパイプライン
「ノルド・ストリーム」を巡る駆け引き

 世界地図を見ると、ウクライナが世界の地政学の要衝であることがよくわかる。ウクライナは東側をロシアに、西側を欧州連合(EU)加盟国に挟まれている。

 ドイツなどのEU主要加盟国は、NATOを通して米国と安全保障面で同盟関係にある。ウクライナのNATO加盟が実現すれば、ロシアは米国など自由主義圏の勢力と直接、対峙(たいじ)しなければならない。ロシアは国境地帯での警備などを強化せざるを得なくなるだろう。偶発的な衝突のリスクも高まる。そうした展開を避けるために、プーチン大統領はウクライナへの圧力を強めた。ウクライナは大国にとって、「緩衝地帯」の役割を担ってきた。

 ロシアにとって、ウクライナへの影響力を維持することは対EU政策上、重要な意味を持つ。EUは天然ガスの約4割をロシアに依存する。

 欧州各国からすると、脱炭素を加速するために、ロシアからの天然ガス輸入の重要性が高まっている。昨年、欧州各国は風力など再エネ由来の電力供給が不安定になった。目下、EUは中東や米国からの天然ガス輸入を増やしているが、長期的に考えるとロシアからの安定した天然ガス供給が重要だ。

 脱原発に取り組むドイツは、二つのパイプラインによってロシアから天然ガスを輸入する。その一つはウクライナを経由する。もう一つはウクライナを迂回(うかい)する「ノルド・ストリーム」(バルト海底を経由してロシアとドイツをつなぐパイプライン)だ。パイプラインを用いるということは、ロシアにはガスを液化する十分な技術力がないと考えられる。ロシアにとってウクライナへの影響力維持は、資源を掘り起こして輸出し経済成長を実現するために欠かせない。

 米国のバイデン大統領は、ロシアがウクライナに侵攻すれば、「ノルド・ストリーム2は終焉する」と警告した。仮にノルド・ストリーム2が停止すれば、天然ガスや原油価格は上昇するだろう。欧米各国はロシアへの経済・金融制裁も準備し始めている。ウクライナ問題によって、世界経済はかなり困った状況に陥る恐れが高まっている。